【Review】FPIESに関する最新の知見のまとめ② 診断・管理

"Recent Update in Food Protein-Induced Enterocolitis Syndrome: Pathophysiology, Diagnosis, and Management"
"食物蛋白誘発胃腸炎症候群(FPIES)における最新の知見:病態生理、診断、管理"
Allergy Asthma Immunol Res. 2022;14(6):587-603. 
Mehr Mathew, Stephanie Leeds, Anna Nowak-Węgrzyn.
以下、文献へのリンクです
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■所感

 前回に引き続きの内容になります。

後半部分の個人的な感想です。

食物経口試験の手法に関して、自施設での負荷試験プロトコールを見直す際にいろいろと調べていたのですが、各報告でそれぞれアレンジされた方法で検討されていて、どの方法もメリット・デメリットがあってまだまだ統一は難しそうな感じですね。本総説でも現段階では国際的に標準化されたアプローチが望まれる、とされるに留まっています。
 本文でも紹介されているSultafaらの方法(→【症例報告】FPIESにおける食物経口負荷試験の修正案)は非常に安全ですが、順調にいっても目標量到達まで9か月近くを要してしまう点では、患者負担も大きいように感じてしまいます。
 個人的にはchronicとacuteを分けて負荷試験プロトコールを考えた方が良いのか、chronicでもacute症状が出るということで同様のプロトコールでよいのか、模索しているところです。

診断における検査所見としては、参考所見としてASLT(アレルゲン特異的リンパ球刺激試験)が日本ではよく行われていると思いますが、本レビューでは(コンセンサスガイドラインでも、ですが)一言も出てきていません。
 また、TARCについて多めに文面を割いて言及されています。アトピー性皮膚炎と同様にTh2リンパ球を介した炎症が病態のメインと考えられているためです。ただ、こちらも年齢ごとに基準値が違ったりするので、悩ましい数値の時に判断に困るときはあります。OFC前後など、タイミングを選べばある程度の確証をもって有用と言えそうです。

鑑別に関しては特にコンセンサスガイドラインからの更新はありませんが、基本的には菌球を要する外科的疾患の除外+疑わしい抗原除去、が第一段階かと思います。

治療については、オンダンセトロンのFPIESの急性症状への治療効果が海外では十分に立証されていると思いますので、日本でも適応が通ってほしいところです。ただ診断が確定していない初発のタイミングでは使用しづらいと思うので、まずは負荷試験中からでも投与ができるようになって欲しいものです。

 アミノ酸乳での管理が必要な児にシンバイオティクスを、という発想はなかったので興味深く感じました。
 経口減感作についても言及されています。上述のSultafaらの方法も、減感作療法的な要素もあるかもしれません。まだまだ議論の分かれるところではありますが、こちらに関しても今後の研究が進むことを期待しています。

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■論文本文抜粋
Diagnosis>>
<診断基準>
 症状の多様性他の疾患と臨床的に類似すること、確定診断できる検査やマーカーがないことなどから、誤診や診断の遅れが生じやすい。
 Powellは、1978年、FPIESが独立した疾患であると認識された当初、生後3ヶ月未満の乳児を対象に食物負荷試験を繰り返し、、牛乳または大豆乳の摂取に伴う体重増加不良、下痢、便中白血球増加を来す疾患群の診断基準を作成したが、それが現在慢性FPIESと考えられている疾患である。
 Sichererらは、1998年、Powellの基準を拡大し、生後9ヶ月までとして、急性発症の患者や固形食品が原因である患者、誘因に対するIgE値が陽性である患者も対象とした。FPIESの主症状である反復性の嘔吐を基準に含めたのも彼らが最初である。
 さらに2012年、LeonardとNowak-Węgrzynは、少なくとも2回のエピソードを要するとする追加の基準を推奨した。
 2013年には、Miceli Sopoらが、急性FPIESのエピソードの概念を初めて報告し、そのエピソードの重症度分類を行った。彼らは、反復する嘔吐に加え、顔色不良や活気低下、嘔吐後にしばしば下痢を来す可能性もあるとした。初発時の年齢は2歳までとした。
 2015年、LeonardとNowak-Węgrzynは基準を改訂し、初発時の年齢の基準をなくし、大項目と小項目っからなる診断基準を初めて制定した。
 そして2017年、Nowak-Węgrzynらは、1つの大項目と9つの小項目による診断基準を踏まえた最初の国際的なコンセンサスガイドラインを発表した。

 現状では、急性FPIESは、1つの大項目と少なくとも3つの小項目を満たした場合に診断される(表1)。


 急性FPIESの軽度~中等度で見られる検査所見には、好中球優位の白血球増加、血小板増加、便中の白血球や好酸球が含まれることがある。
 重度の症状には、代謝性アシドーシスやメトヘモグロビン血症が見られることもある。
 慢性FPIESの場合、最も重要な診断基準は、誘因となる食物を除去してから数日以内に症状が消失し、再度摂取すると急性に再発することである。検査所見では、慢性的な消化管出血による貧血や低アルブミン血症が確認される可能性がある。

 最新のガイドラインの主な限界は、FPIESの急性反応の多様な表現型を捉えていない可能性があることである。例えば、日本では、急性FPIESを呈した患者の一部に発熱が認められ、この発熱は食物負荷試験で再現性がある。これらの観察結果は、民族的または地理的な臨床的な差異の可能性があるが、これを明らかにするためには、よりグローバルな研究が必要である。

<食物経口負荷試験(OFC)>
 FPIESの診断は病歴だけで十分な場合が多く、特に摂取後の症状発現のタイミングや誘因となる食品に注意が必要である。
 しかし、病歴だけで不十分な場合、特に慢性FPIESの場合には、OFCが必要であり、診断のためのゴールドスタンダードと考えられている。確定診断のためのOFCを実施しなければ、慢性FPIESの診断は推定に留まる
 OFCでは、大項目と、2つ以上の小項目を満たせばFPIESの診断とみなされる(表1)。

 FPIES患者においてOFCを行うもう一つのパターンとしては、原因食物に対する耐性が獲得できているかどうかを判定することである。
 米国では、OFCは通常、最後に症状を起こしてから12~18ヶ月間隔を空けて行う。
 フランスの多施設共同研究においては、診断されてから1年以内にOFCを実施すると、OFC陽性であるリスクが高くなることを明らかにした。

 現在、FPIES患者にOFCを実施するにあたり標準化されたプロトコルは存在しない(表2、割愛)。さらに、原因食物をいつ自宅で導入してよいかについてもコンセンサスが得られていない。

 最近、Sultafaらは、原因食物への曝露を微量ずつ増量し、医師の監視のもと、遅発性・慢性FPIESの発症も厳密に観察できるようにする修正OFCプロトコルを提案した。(→【症例報告】FPIESにおける食物経口負荷試験の修正案)
 タンパクを目標量の1%で導入し、その後4時間観察、そして、同量の摂取を4週間自宅で継続し、医師の監督下で4週間ごとに量を5%、10%、20%、30%、40%、60%、80%、そして最終的に目標量まで増量することを提言している。
 このプロトコルとガイドラインでの推奨プロトコルは対照的であり、FPIESにおけるOFCプロトコールの国際的な標準化の必要性と、いつ自宅で導入するのが適切か、患者の特性を特定することの重要性を強調している。

<診断マーカー>
 前述したように、FPIES の診断に信頼できる血清学的マーカーは現在存在しない。しかし、有望な診断マーカーとして、TARCが注目されている。
 TARCはTh2ケモカインであり、ADのような他のアレルギー疾患でしばしば高値を示すが、FPIESの症状を呈する患者では異なるレベルで上昇するようである。
 Makitaらは、感染性胃腸炎に比べ、固形物FPIES患者では、嘔吐後のTARC濃度が有意に高いことを報告している。

 アトピー性疾患、特にADとFPIESの関連性が高いことから、TARC値の上昇は必ずしも特異的とはいえないが、OFC前後でのTARC比は特異性を高めるのに役立つと思われる。
 Okuraらは、FPIES患者において、ADの有無にかかわらず、OFC陽性群のTARC比中央値がOFC陰性群より有意に高いことを確認した。
 FPIESのバイオマーカーとしてのTARCの感度および特異性をさらに評価するためには、さらなる研究が必要ではあるが、これらの初期知見は有望である。

 臍帯血中の好酸球増多便中好酸球も、疑わしい病歴や症状があればFPIESの診断に利用できるが、どちらもFPIESの診断に特異的なものでない。

<鑑別診断>
 FPIESが強く疑われる患者では、IgE非依存性の食物アレルギーとして、他の2つの形態を考慮する必要がある。
 食物蛋白誘発アレルギー性直腸炎(FPIAP)は、非IgE介在性症候群の中で最も重症度が低く、正常な成長および発達を示す乳児において、約1歳までに自然治癒する慢性の血便を引き起こす。
 食物蛋白誘発腸症(FPE)は、慢性的な非血性の下痢を呈し、その結果、成長不良を起こし、一部では吸収不良を起こすが、2歳までに自然治癒する。
 感染性胃腸炎後に二次性乳糖不耐症を発症し、長引く下痢を引き起こすこともある。

 FPIESは、IgE非依存性の食物アレルギー症候群の中で最も重症で、急性または慢性+急性所見を呈することが多く、FPIAPとFPEの両方の症状と似通う。しかし、FPIESの急性所見は嘔吐を伴い、これはFPIAPやFPEでは通常みられない。また、FPIESでは、治癒年齢が遅い傾向がある。

 FPIESの早産児の画像診断で見られる腹部ガスの異常パターンは、壊死性腸炎(NEC)と混同されることがある。
 Kimらによる研究では、FPIESの早産児とNECの早産児の症状に差はないと報告した。実際、超音波検査での腸管壁内気腫は、FPIESの早産児でNECの早産児よりも多いことがわかった。
 Qiらは、NEC患者で高値となるIL-27を用いて、FPIESと壊死性腸炎を鑑別できる可能性を提案した。しかし、NEC のバイオマーカーとなりうる IL-27 の感度および特異度を検証するためには、さらなる研究が必要である。
 これらの所見から、FPIESが疑われる場合、ルーチンでのX線検査は強く推奨されない

 急性FPIESでは、全身所見から、ウイルス性胃腸炎、敗血症、アナフィラキシーなどのが鑑別として挙げられることが多い。重症例で、血液検査でのメトヘモグロビン血症は、先天性代謝異常症に見られることもあり、乳児期に発症することが多いことから、考慮する必要がある。その他、乳糖不耐症、胃腸逆流症、好酸球性胃腸障害、免疫性腸炎、先天性・後天性腸閉塞、代謝異常、原発性免疫不全などの診断が考えられる(表3)。

Management>>
 急性FPIESの症状に対しては対症療法が中心となる。
 自宅で発症した場合、嘔吐が1~2回で、活気不良を伴わない場合は経口補水を試みるべきである。
 嘔吐が3回以上繰り返され、中等度から重度の活気不良を伴う場合は、救急医療機関を受診して輸液を開始し、6ヶ月以上の患者にはオンダンセトロンの投与が推奨される。
 ショックに値するような重篤な症状(著しい活気不良、低血圧)を呈する患者には、オンダンセトロンの静脈内投与と同様に、輸液ボーラス、維持輸液による循環管理を行うべきである。
 重度のFPIES症状に対するステロイドの使用を支持する証拠はないが、腸管炎症が推定される場合には、しばしば投与されることがある。
 バイタルや全身状態を注意深くモニターし、必要があれば昇圧剤投与を開始し、電解質を補正する必要がある。

 FPIES患者において、原因食物を誤って摂取したり、新規の食材が原因食物であった場合には、原因食物の回避について家族に指示し、脱水やショックの兆候を指導し、オンダンセトロン内服薬の処方を行うことが推奨される。
 なお、エピネフリンは急性FPIESの治療には適応されない
 atypical FPIES患者は原因食物に対する特異的IgEを有するが、これらの患者におけるアナフィラキシーはまれである。

 牛乳または豆乳の FPIES児は、多くの場合、母乳には反応しないことが多い。しかし、人工乳栄養児であれば、一般的にはカゼインベースの高度加水分解乳が推奨される。しかし、それでも急性FPIESを来したり、慢性FPIESで成長障害が持続する例も報告されている。そのうち、10%~20%はアミノ酸乳(AAF)を必要とする。

 最近の二重盲検多施設ランダム化比較試験で、牛乳FPIES患者にシンバイオティクスを含むアミノ酸乳(AAF)を使用すると、健康な母乳栄養児と同様に、便中のビフィズス菌のレベルが高く、Eubacterium rectaleClostridium coccoidesの比率が低くなることがわかった。重症のFPIES患者には、AAFを初期に選択する方がよいかもしれない。

 一般に、FPIES、特に原因食物が複数であるFPIESを持つ児は、偏食や体重増加不良、栄養失調を来すリスクが高い
 COVID-19の大流行期においては、保護者にとってのその心理社会的負担も大きい。
 食事指導としては、原因食物の除去、正常な成長と発達を促すために栄養補正を進めること、可能な限り保護者の負担を軽減するために、家族に詳細な個別の栄養計画を指導することなどを含む。

 また、IgE依存性食物アレルギーの管理でよく用いられる経口減感作療法も有望な選択肢である。
 Miceli Sopoらは、卵に対する持続的な急性FPIESの、皮膚プリックテストが陰性であった9歳の患者に対し、OFCが6回陽性であったことを踏まえて経口減感作を実施した。減感作を開始してから約13.5ヶ月後に、患児は生卵1個分に相当する量を摂取できるようになった
減感作終了後、卵の摂取を中止し、1ヶ月後に生卵1個でOFCを実施したが、副作用はなく陰性であった。
 様々な原因食物を持つ様々なFPIESの表現型における経口減感作の役割を明らかにするには、大規模なランダム化比較試験が必要であるが、FPIESにおいて早期に耐性を誘導できる可能性は、管理や患者のQOLを向上させるために非常に魅力的な手段である。

Conclusion>>
 FPIESは非IgE依存性の食物アレルギー症候群であり、その発生率・有病率は考えられていたよりも高い。様々な食品がFPIESの原因食物となり得るが、最も一般的なのは牛乳と大豆である。固形物や大豆のFPIESでは、複数の食物に対するFPIESのリスクが有意に高くなる。安心できるのは、FPIESの大部分は学童期までに自然に治癒する点である。
 発症のメカニズムは、主に自然免疫反応によるものと思われるが、獲得免疫系も関与している。また、新たな研究により、FPIESの発症における中枢神経系と腸内細菌叢の重要性が明らかになり、治療ターゲットとして期待されている

 FPIESの診断には、the American Academy of Allergy, Asthma & Immunologyの国際的なコンセンサスガイドラインに記載されている診断基準が役立つ。FPIESは、IgEを介した食物アレルギーとは異なり、主に皮膚や呼吸器に症状がないことが特徴である。病歴や症状だけでは診断に不十分な場合、特にFPIESが他の疾患過程と判別が難しい可能性があることを考慮すると、診断のゴールドスタンダードとしては食物経口負荷試験が有用である。
 FPIESの診断に有効なマーカーはないが、TARC値を測定することで診断の助けとなる可能性はある
 FPIESの治療は、原因食物の除去に加え、主に水分補給と制吐剤を中心とした対症療法が中心となる。ショックが懸念される重篤なエピソードの場合、輸液による脱水補正と維持輸液、血圧管理、電解質補正を行う集中治療が適応となる場合がある。

 FPIESを持つ子どものケアは、特に最近のCOVID-19の流行によって強調されたように、保護者に過度の負担を強いることになる。特殊なミルクの使用やアレルゲンの除去による管理が困難であることやコストがかかるだけでなく、体重増加不良などを引き起こすこともある。IgEを介した食物アレルギーの食事管理でよく用いられる経口減感作療法は、FPIESにおいても原因食物に対する耐性を促進する手段としての可能性が示されている

 過去10~15年の間に、FPIESに関する理解は大きく深まったが、この特殊な疾患について、まだまだ解明されるべきことがある。
 治療法に加え、診断基準や食物経口負荷試験の陽性基準は依然として議論の余地があり、さらなる検証や標準化が必要である。
 さらに、現在の管理方法を最適化するために、より大規模な無作為化臨床試験が必要である。本総説で強調されたように、今後の研究の道のりは長く、今後10年単位でさらなる進歩に大きな期待が寄せられている。

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 *記載内容に関してはあくまでも個人の解釈、意見の範疇ですので参考程度に捉えてください。

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