"Modified oral food challenge protocol approach in the diagnosis of Food Protein-Induced Enterocolitis Syndrome"
"FPIESに対する修正OFCのアプローチ"
2022. Allergy, Asthma & Clinical Immunology
Jessica Sultafa, Lundy McKibbon, Hannah Roberts, Jumana Sarraj & Harold Kim
以下、文献へのリンクです。
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INTRODUCTION>>
食物蛋白誘発胃腸炎症候群(FPIES)は非IgE依存性の食物アレルギーで、多くは乳児に発症する。原因食物としては大豆や牛乳、穀物が一般的である。症状は繰り返す嘔吐、下痢、活気低下、顔色不良、腹部膨満、低血圧やショック等である。診断確定のためには食物経口負荷試験(OFC)が必要で、現在のInternational Consensus Guideline(2017,以下ガイドライン)では、0.06-0.6g/kgの原因食物タンパクを3回に分けて、30-60分かけて15-30分おきに摂取すること負荷することが推奨されている。しかし、15%程度で低血圧・ショックを伴う重篤な症状を呈し、45-95%が輸液やステロイド投与などの治療を要するとされる。
FPIESにおけるOFCのプロトコルは数多く検討されているが、いずれも慎重な観察と末梢ルート確保および輸液が必要である。
筆者らのクリニックでは、より慎重なアプローチとして、ごく少量ずつの増量を行っている。1ヶ月に1回だけ増量を行い、次の増量までOFCで陰性であった量を継続摂取させている。このことにより、遅発性または慢性FPIESを評価することができ、安全で、事前のルート確保の必要性が減り、分かりやすい投与・増量間隔で、最終目標量を年齢相応量としており実用的であることから、この方法を選択している。本報告の目的は、より安全なOFCを可能にし、遅延性/慢性FPIESの反応を評価できるOFCプロトコールへ修正を提案することであった。
*Table1 増量プロトコール
Dose1:目標量の1% 4週間継続
Dose2:目標量の5% 4週間継続
Dose3:目標量の10% 4週間継続
Dose4:目標量の20% 4週間継続
Dose5:目標量の30% 4週間継続
Dose6:目標量の40% 4週間継続
Dose7:目標量の60% 4週間継続
Dose8:目標量の80% 4週間継続
Dose9:目標量の100% 4週間継続
Case presentation>>
症例は生後6か月の女児。湿疹を含め既往歴・家族歴に特記事項は無し。初めて卵焼きを食べ、摂取2時間後から激しい嘔吐が4時間持続し、傾眠傾向であった。皮膚症状、呼吸器症状、循環器症状はみられなかった。救急外来を受診し帰宅となった。皮膚プリックテスト(SPT)では4mmで軽度陽性であった。17か月まで除去を継続し、SPTは3mmに軽減していた。
そこで、目標量の1%量でOFCを実施し、4週後に5%に増量、さらに4週後に10%に増量、以降4週ごとにフォローを継続する予定とした。
まず、約1%量に相当する鶏卵を使用したマフィン作り摂取させるOFCを行い陰性であった。初回の摂取は2時間以上外来で観察し陰性であった。以降は連日同量・同製品で摂取を継続した。しかし、その後1週間以内にFPIES症状(数回の水様性下痢と摂取後2-3時間以内に2回の激しい嘔吐)があり、2回ともオンダンセトロン投与で改善したが、1回は救急外来を受診するほど重症であった。皮膚症状、呼吸器症状、循環器症状など、IgE依存性のアレルギー反応を示唆する症状は全くなかった。
DISCUSSION>>
ガイドラインにおけるOFCでは輸液や緊急対応が可能な環境での実施が求められており、低血圧や代謝異常、ショックのリスクが高くハイリスクであると位置づけられている。しかしガイドラインでの推奨方法(プロトコールやタンパク質量ベースでの摂取量換算)にはっきりとした根拠は無いようである。
30-60分間隔で3回の摂取をさせるが、2〜3時間で症状が出ないからといって、その後症状が出る可能性もあり、負荷量の蓄積により重篤な症状を来す可能性がある。本症例のように、低用量で開始しても、最初は耐えられるが、数日後に症状が出現することもある。ガイドラインのOFCプロトコルは食物アレルギーの多くの専門家に受け入れられているが、我々の症例はこのFPIESのOFCプロトコールを見直すべきであることを示唆している。
より慎重な本法は安全性が高い反面、数ヶ月に及ぶ長期間の診療が必要であり、また家庭環境において反応が出る可能性があることが欠点である。我々のOFCプロトコルは、リスクが少なく、投与量もシンプルで覚えやすく、最終目標量が個々の患者の予想摂取量となるため、より実用的である。我々はこのプロトコルを20例以上で実施したが、輸液を要するような重篤な症状は無く、起こる反応は軽度であり、プロトコルの初期に起こる。
重症FPIESの既往のある患者では、有症状時の対応やトレーニングを受けたスタッフを配置し蘇生対応ができる施設で実施・増量することが推奨される。
CONCLUSION>>
我々のプロトコルでは、OFCの初期投与量を少なくし、4週間単位で慎重に増量することで、FPIESの症状が発現するまでに猶予ができる。
FPIESの確定診断にはOFCを実施すべきであると考えるが、現在のガイドラインのOFCはリスクが高いように思われる。
患児にとってより安全なOFCを可能にするため、プロトコルを修正することを提案する。我々の方法は、重篤な副作用を引き起こす可能性が低く、 慢性FPIESの評価も可能であると考える。
FPIESにおけるOFCの様々なアプローチを評価するために、さらなる前方視研究が望まれる。
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以下、所感です。
近年増加傾向の食物蛋白誘発胃腸炎症候群(FPIES)に対するOFCのプロトコールを見直すべきでは無いか、と提起する症例報告です。報告では初期段階のOFCが陰性であっても、継続摂取により慢性FPIESとしての症状を呈した症例の詳細な経過とともに考察が報告されています。
今回の方法では、安全性は高く、慢性FPIESの評価も可能という点で優れていると思います。しかし一方で、すでに自然耐性獲得していたとしてもfull doseに達するまで約9か月と、最終的な寛解確認まではかなり長期に及ぶ点は実用的では無いように感じました。漸増期にも原因食物は摂取できるので良いのでしょうか?しかし一般的な、最終症状から6~12か月の除去期間を経て、さらに厳密に摂取量の調整を自宅で9か月継続するというのは家庭への負担が少し大きいように思います。
この他にも世界的に各施設で安全で実用的なOFCのプロトコールに関して模索され、報告が相次いでいます。ガイドラインで推奨される方法は、一般的に症状発現まで1~4時間とされる急性FPIESに対してその間にさらなる負荷を継続する点では疑問が残り、確かに重篤な症状誘発のリスクも高いです。
やはり寛解確認までは時間はかかりますが、医療機関での少量単回OFC投与→自宅での継続摂取→増量OFC→・・・→full doseの流れが安全でしょうか。個人的には今回の報告よりは量は多く(1/50→1/4→full、重症ではもう少し小刻みに)、期間は短く(2~4週間隔)、ぐらいを考えていますが、より良い方法の開発されガイドラインが更新されることを期待しています。
*記載内容に関してはあくまでも個人の解釈、意見の範疇ですので参考程度に捉えてください。
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