"Postextubation airway obstruction in children: Are steroids the key to prevention?"
"小児における抜管後気道閉塞:ステロイドは予防のためのキードラッグか?"
Pediatric Plumonology. Volume56, Issue8. August 2021. Pages 2395-2396.
Kaitlin Verdone, Christopher M. Watson.
以下、文献へのリンクです。
---------------------------------------------------------------------------------- "Twenty-four-hour pretreatment with low dose (0.25 mg/kg/dose) versus high dose (0.5 mg/kg/dose) dexamethasone in reducing the risk of postextubation airway obstruction in children: A randomized open-label noninferiority trial"
Biraj Parajuli, et al.
Pediatric Plumonology. Volume56, Issue7. July 2021. Pages 2292-2301. March 2021
こちらの論文に対するEditrialです。
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=PEAOについて=
小児集中治療室(PICU)における予期せぬ再挿管は、予後や死亡率の悪化、医療費の大幅な増加につながるが、喉頭浮腫に起因する抜管後気道閉塞(PEAO)は、予測可能かつ予防可能な病態の一つである。喉頭浮腫は、気管内チューブの圧迫や刺激によって起こり、抜管後の喘鳴や閉塞を引き起こすことがある。この合併症はすべてのPICUで発生するが、この危険因子には、PICU以外での挿管が多いなど、挿管そのものを取り巻く状況や、栄養失調などの患者要因が含まれ、低・中所得国で発生率が最も高くなる。また、挿管後の浮腫は解剖学的な要因で、小児でより生じやすい。
理論的には、ステロイドの抗炎症作用により、喉頭の局所的な炎症が減少し、浮腫が減少すると考えられ、いくつかの研究で、デキサメタゾンの前投薬によりPEAOの発生率が低下することが示されている。しかし、研究ごとに投与量には大きなばらつきがある。高用量のコルチコステロイドの使用に関連する副作用には、高血糖、高血圧、免疫抑制および二次感染、消化管出血がある。小児における生命を脅かすPEAOを予防し、副作用のリスクを最小限に抑えるために、最適なステロイドの投与量をさらに検討する必要がある。
=PEAOのリスクとステロイド投与すべき対象=
Parajuliらが、小児患者におけるPEAOのリスク低減におけるデキサメタゾン低用量(Low-Dose; 0.25 mg/kg/投与)と高用量(High Dose; 0.5 mg/kg/投与)の前投薬の差異を無作為化非盲検試験において評価(本論文)しているが、気道閉塞による再挿管リスクは2群間で差がなかったと報告している。しかし、時間的・物流的制約により、十分な参加者を登録することができず、LD群のHD群に対するの非劣性を証明するのに十分な検出力がなかった。抜管前の予防的なコステロイドの使用は、すべてのPICUで共通ではなく、投与方法やリスクのある患者の特定要件に関しても大きく異なる。喉頭浮腫や抜管後の喘鳴を引き起こす危険因子としては、上気道感染、不適切な太さの気管内チューブや高いカフ圧、挿管を何度も試みることによる外傷、長時間の挿管、不適切な固定や体動による過度のチューブ移動などがある。危険因子はこれほど知られているにもかかわらず、抜管前にステロイドの前投薬を受けべき患者を抽出するための明確なシステムは存在しない。抜管後の喘鳴や抜管失敗のリスクが高い患者を特定するために、エアリークテストがしばしば採用されるが、実施方法と陽性基準には大きなばらつきがあり、さらに、この検査は感度も特異性も高くないことが示されている。より有効な判断手段として、超音波による気管チューブのカフを膨張させた場合と収縮させた場合のチューブ周囲の気道の開通幅の測定方法が近年提唱されており、小児においてもエアリークテストよりも有意に感度、特異性、正確性に優れていることがわかった。
=抜管前ステロイド投与の現在の立ち位置は=
2009年に発表されたCochrane Systematic Reviewでは、あらゆる年齢の患者を対象に、喘鳴と抜管失敗のリスクを低減するステロイドの効果が評価された。このレビューの著者は、当時入手可能であった研究結果に基づき、新生児と小児における吸気性喘鳴や抜管失敗の減少に対するステロイドの有効性を示す根拠はなく、コンセンサスはないと結論付けた。一方、2020年には、より新しいシステマティックレビューと小児を対象とした10件の研究のメタアナリシスが発表され、小児における抜管後の吸気性喘鳴や抜管失敗の低減に対するステロイドの有効性が評価された。この大規模なコホートにおいて、使用される用量には幅があったものの、ステロイドは喉頭浮腫がある、あるいはその危険性がある患者の喘鳴と再挿管率を有意に減少させたと指摘した。
小児でのデータがこれまであまり明確でなかったのとは対照的に、成人ではステロイドの使用を支持するものが多くある。11の成人臨床試験のシステマティックレビューとメタアナリシスでは、抜管前の予防的なステロイド投与は、高リスク患者のPEAOと再挿管の割合を減らすのに有効であることが示された。これらの患者は、エアリークテストに基づいてリスクが高いと定義されたが、エアリークテスト陽性の定義は研究によって異なっていた。
=ステロイド投与量と投与方法=
これらの研究において、小児と成人の両方で、どのコルチコステロイドを使用するか、用量、頻度、最初の投与から抜管のタイミングまでの経過時間に一貫性がないことに注意が必要である。これらの様々なレジメンから最適な投与量に関する直接的な結論を導き出すことは困難であるが、抜管の1時間前にステロイドを単回投与しても効果はなく、抜管前の24時間に複数回投与した方がより効果があるということは示唆されているようである。
現在、スペインで200人の小児を対象に、抜管後の上気道閉塞予防におけるステロイドとプラセボの有効性を検討する多施設共同前向き二重盲検無作為化プラセボ対照第IV相臨床試験が進行中であり、残る疑問点を明らかにするための取り組みが行われている。この試験では、デキサメタゾンを6時間ごとに0.25mg/kg/回、計4回投与する方法を予定しており、これはParajuliらの研究で用いられたLD群と同様である。
=抜管前ステロイド投与のポイント=
小児の抜管前の予防的なステロイドの使用に関しては、現時点では疑問が多いものの、現在発表されている文献によると、計画的に抜管前にステロイドを使用することは、一部のリスクの高い小児患者にとって有益なようである。ステロイドの選択はあまり重要ではないと思われるが、LDよりもHDが有用であることを支持するデータもないようである。しかし、前もって計画を立て、少なくとも抜管の6時間前に最初の投与を行うことが重要であり、抜管前の24時間に複数回投与することでより大きな効果が期待できるようである。
小児の予期せぬPAEOに関連する医療費と死亡率の増加を考えると、Parajuliらの今回の研究は、エビデンスに基づく抜管プロトコルの開発、および基礎的な素因のさらなる軽減のために、継続的な調査が必要であるという重要な注意を喚起するものである。
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以下、所感です。
今回は集中治療領域から、小児挿管患者における、抜管時のステロイド前投薬に関しての論説です。
挿管管理後抜管前の喉頭浮腫予防のためのステロイド投与はある程度一般的に行われていると思いますが、現時点で定まったプロトコールや推奨されるべき投与量・投与方法・投与対象は明らかになっていません。新生児、乳幼児以降など対象によっても著書によって推奨の投与方法や量はさまざまなのが現状です。施設ごとに基準を設けて実施しているところも多いかと思います。勤務先では設けられた基準は無くcase by caseなので、いつも悩むところです。
上記文献からは "デキサメタゾンを0.25mg/kg/doseを6時間間隔で4回、少なくとも抜管6時間前から投与を開始する"、というのが重要とのことです。これに準拠したRCTが行われているところで、結果が気になります。
挿管を必要とした主の病因にもよるでしょうし、なかなか画一化するのは難しいところかとは思いますが、そのあたりのリスクに関しての解析も進むと良いですね。新生児はカフ付きチューブを使用しないことが多いので、他の集団と比較するとリスクとしては低くなるでしょうか。
*記載内容に関してはあくまでも個人の解釈、意見の範疇ですので参考程度に捉えてください。
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