【Cochrane Corner】乳児の急性細気管支炎に対する高張食塩水吸入のエビデンス

"Nebulised Hypertonic Saline Solution for Acute  Bronchiolitis in Infants"
"乳児の急性細気管支炎に対する高張食塩水吸入(COCHRANE CORNER)"
Clinical & Experimental Allergy. Aug 2024.54,8:534-537.
Nancarrow-Lei, Rhiannon; de Sousa Magalhães, Joana Hiew.

以下、文献へのリンクです
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■この論文のまとめ

2023年にUpdateされた、乳児の急性細気管支炎に対する高張食塩水吸入に関する上記Cochrane Reviewに対するCochrane cornerです。

ーはじめにー

 急性細気管支炎は、細気管支の炎症によって特徴づけられ、気道の浮腫粘液栓塞により喘鳴を生じる。2歳未満の小児に最もよくみられる下気道感染症であり、RSウイルス(RSV)が最も頻度の高い原因である。3%以上の濃度の高張食塩水の吸入は、これらの病理学的変化を軽減し、気道閉塞を減少させる可能性があるが、現在入手可能なエビデンスは相反するものである。Cochrane Reviewでは2008年から、2010年、2013年、2017年に更新され、2023年に最新となった。
 このCochrane cornerの目的は、急性細気管支炎の乳児における高張食塩水の吸入の効果を評価することである。

ー方法ー

<対象文献>
 2022年1月13日にCochrane Central Register of Controlled Trials(CENTRAL)、MEDLINE、MEDLINE Epub Ahead of Print、In-Process & Other Non-Indexed Citations、Ovid MEDLINE Daily、Embase、CINAHL、LILACS、Web of Science、World Health Organization International Clinical Trials Registry Platform(WHO ICTRP)およびClini calTrials.govに掲載されている腱弓を対象とした。
<対象患者>
 24ヵ月未満の急性細気管支炎の児を対象に、積極的介入としてネブライザーによる高張食塩水吸入単独または気管支拡張薬の併用、比較対象としてネブライザーによる0.9%生理食塩水吸入または標準治療を用いたRCTおよび準RCTを対象とした。
 入院患者を対象とした試験の主要アウトカムは入院期間であり、外来患者または救急外来を対象とした試験の主要アウトカムは入院率であった。
<データ収集と解析>
研究の選択、データ抽出、バイアスリスクの評価は、2名のレビュワーが独立して行った。 Review Manager 5を用いてランダム効果モデルのメタ解析を行った。 平均差(MD)、リスク比(RR)、およびそれらの95%信頼区間(CI)を効果量の指標として用いた。

ー主な結果ー

<試験の概要>
 今回の更新では、新たに6件の試験(n = 1010)を組み入れ、組み入れた試験の総数は34件となり、5205人の急性細気管支炎の乳児が対象となり、そのうち2727人の乳児が高張食塩水の吸入を受けた。11試験は適格性評価のためのデータ不足のため、分類待ちである。
 すべての試験はRCTであり、30試験は二重盲検化されていた。
 12試験はアジア、5試験は北米、1試験は南米、7試験はヨーロッパ、9試験は地中海および中東地域からの報告であった。
 高張食塩水の濃度は、5%~7%食塩水が使用された6試験を除くすべての試験で3%と定義された。
 9つの試験は資金提供を受けておらず、5つの試験は政府機関または学術機関から資金提供を受けていた。残りの20試験は資金提供元を明らかにしていない。
<結果>
 高張食塩水を吸入した乳児は、通常の生理食塩水を吸入した乳児または標準治療を受けた乳児と比較して、
 〇平均在院日数が短い可能性がある
 (MD -0.40日、95%CI -0.69~-0.11、21試験、2479例、確実性の低いエビデンス)
 〇吸入後最初の3日間の臨床スコアが低い可能性がある
 (1日目: MD -0.64、95%CI -1.08~-0.21、10試験(外来1、ED1、入院8)、893例 /
  2日目:MD -1.07、95%CI -1.60~-0.53、10試験(外来1、ED1、入院8)、907例 /
  3日目:MD -0.89、95%CI -1.44~-0.34、10試験(外来1、入院9)、785例、確実性の低いエビデンス)
 〇外来患者およびEDで治療を受けた乳児において、入院リスクを13%減少させる可能性がある
 (RR 0.87、95%CI 0.78~0.97;8試験、1760例;確実性の低いエビデンス)
 (外来や救急外来で乳児に2回以上投与された場合には、より大きな効果が認められた。)

 ●退院後28日までの再入院リスクを減少させない可能性がある
 (RR 0.83、95%CI 0.55~1.25;6試験、1084例;確実性の低いエビデンス)
 ●喘鳴・咳・肺の湿性ラ音が消失するまでの日数が短いかどうかは不明
 (それぞれ、MD -1.16日、95%CI -1.43~-0.89;2試験、205例;非常に低い確実性のエビデンス、
       MD -0.87日、95%CI -1.31~-0.44;3試験、363例;非常に低い確実性のエビデンス、
       MD -1.30日、95%CI -2.28~-0.32;2試験、205例;非常に低い確実性のエビデンス)

 ◇安全性データ:14試験(1,624例、高張食塩水吸入767例、うち気管支拡張薬との併用735例(96%))では有害事象が報告されず、13試験(2,792例、うち気管支拡張薬との併用416例(28%)、高張食塩水単独投与1,063例(72%))では有害事象が報告された
 高張食塩水投与群では、咳の悪化、興奮、気管支痙攣、徐脈、酸素化不良、嘔吐、下痢などの有害事象が少なくとも1つ報告されたが、そのほとんどは軽度で自然に消失した(信頼性の低いエビデンス)(本文中図1)。

結論

 高張食塩水の吸入は、
 〇急性細気管支炎で入院した乳児の入院期間をわずかに短縮し、臨床的重症度スコアをわずかに改善する可能性がある。
 〇外来患者および救急外来患者における入院のリスクを低下させる可能性がある。
 ◇特に気管支拡張薬と併用した場合、軽微で自然に消失する有害事象しかなく、気管支炎の乳児に対する安全な治療法であると思われる。
 エビデンスの確実性は、すべてのアウトカムにおいて低いか非常に低いものであり、National Institute for Health and Care Excellence(NICE)は、乳幼児の気管支炎の治療に高張食塩水のルーチンでの使用を推奨していない。
 ほとんどの研究が重症例を除外しているため注意が必要である。このような症例における高張食塩水吸入の効果を評価するために、さらなる研究が必要である。

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■所感
 RSウイルス感染症が季節性を問わず、全国的にも局所的にも爆発的な感染を起こす昨今、頻繁に地域の病床を逼迫するようになってきました。

 長らく議論の続く、急性細気管支炎への高張食塩水吸入の是非に関して、2023年にCochrane Reviewが改訂されました。かなりの文量がありますし、全文読むには気力が必要ですが、このCochrane cornerでも概要をつかむことができます。

 上記内容を踏まえ、吸入液の調整という手間はかかりますが、少なくとも高張食塩水吸入はリスクベネフィットを踏まえたうえでも有益性のあるケアだと考えられます。

 病態をしっかり評価したうえで吸入薬の選択は必要かと思いますが、入院期間の短縮や重症度の低下、入院リスクの低減、の面で患児への負担を減らすだけでなく、RSウイルス流行期には社会的な面でも少なからず役割を果たす可能性があるのではないでしょうか。

 興味のある方はぜひ元論文も参照してみてください。

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 *記載内容に関してはあくまでも個人の解釈、意見の範疇ですので参考程度に捉えてください。

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