"Recent Update in Food Protein-Induced Enterocolitis Syndrome: Pathophysiology, Diagnosis, and Management"
"食物蛋白誘発胃腸炎症候群(FPIES)における最新の知見:病態生理、診断、管理"
Allergy Asthma Immunol Res. 2022;14(6):587-603.
Mehr Mathew, Stephanie Leeds, Anna Nowak-Węgrzyn.
以下、文献へのリンクです
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■所感
今回は食物蛋白誘発性胃腸炎症候群(FPIES)に関する総説になります。
これまで、各国独自の概念や診療基準で管理されていた、FPIESを含めた非IgE依存性食物蛋白誘発胃腸症(non-IgE GIFAs)に関する国際コンセンサスガイドラインが2017年に発表されました。
それをきっかけに、国内でも国際的にも認知度があがり注目されているかと思いますが、個人的にも現在非常に興味を持っている疾患です。
実際に臨床で管理をするにあたり、多々疑問点があり都度調べてみるのですが、まだまだ解明されていない点や不透明なところも多いのが現状です。
今回、その2017年のガイドラインの筆頭著者であるNowak先生らにより、それ以降の知見も踏まえた総説が2022年11月に発表されました。
文量が多いので2度に分けて記事にしますが、今回個人的に気になった部分や2017年のガイドラインからの新たな報告の内容などを中心にご紹介したいと思います。
興味のある方はぜひ元論文を参照してみてください。
前半部分の個人的な感想です。
●原因食物や発症率、耐性獲得時期には地域差があるのか、報告によって多少の差があるのはこれまでの報告通りです。
"地域差"とは、食生活などの生活環境の要因だけでなく、OFCの実施時期や実施方法にも影響されているものと思われます。
●atypical FPIESに関しては、IgE依存性食物アレルギーに移行する割合が約25%とのことです。
FPIES患者の約1/3が原因抗原に対する特異的IgEが陽性とされます。そのうちの"25%"という数値を多いと捉えるか、少ないと捉えるかは難しいところですが、特にatypical FPIESの症例においては、OFCの際に即時型反応に対する備えや、事前のSPTやRASTでの評価が必要であると改めて感じたところです。
●危険因子については、現時点で強いエビデンスがあるわけではないものの、"帝王切開児"と"出生前の母体への抗菌薬投与"が挙げられています。決して発症予防に役立てられる因子ではないですが、これらが確立すればより病態の解明にはつながるのかと思います。
また、生後の評価でも、腸内細菌叢の構成にFPIES児と対照児で有意差があり、抗菌薬の使用と関連している可能性がある、と記載されています。他のアレルギー疾患が抗菌薬をリスクとするのと同様、FPIESにおいても不必要な抗菌薬投与を減らすことがFPIESの予防になるかもしれません。
●病態生理に関しては、臍帯血での好酸球増多の所見は、chronic FPIESの病態が胎児期にすでに完成されていることを示唆するものでしょうか。
症状のトリガーとして、オンダンセトロンが治療に有効であることは腸脳連関による自律神経系の異常が関連している、との考察でした。
本邦においてもオンダンセトロンが、せめて負荷試験の時だけでも適応が通れば、とは思うのですが。
...次回に続きます。
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■論文本文抜粋
Overview>>
<疫学>
FPIESは、一般に乳児~小児期に診断される非IgE依存性の食物アレルギー症候群である。
FPIESは1970年代に初めて報告されたが、診断手法が標準化されていなかったこともあり過小評価されていた。
ここ数年でFPIESの発症率と有病率を報告した疫学調査が発表されており、米国、イスラエル、オーストラリア、スペインで推定された累積発生率は、0.015%-0.7%と地域によって発症率が異なる。
男女比は若干男児に多い傾向で、52-62%程度である。
FPIESの平均発症年齢は、誘因となる食物や食物導入の時期により異なる。
典型的なFPIESは乳児期の早期に発症し、人工乳や大豆乳を摂取し始めてから1~4週間以内に発症する。
固形食によるFPIESの発症年齢は、離乳食を開始する生後6ヶ月頃以降に発症しする。
一般的に報告されている原因食物は、穀物(オート麦、米、小麦)、野菜(さつまいも、ニンジン)、果物(アボカド、バナナ、りんご)である。
成人での診断例もあり、米国では、18歳以上の成人の有病率は0.22%であった。
成人のFPIESでは、魚介類が最も多い原因食物とされる。
成人発症のFPIESでは女性の方が発症しやすく、発症年齢の中央値は29歳である。
<自然歴>
FPIESは急性にも慢性にも発症する。
急性FPIESでは、誘因となる食品を摂取してから通常1~4時間以内に、反復する噴水様の嘔吐を示し、6~8時間以内に下痢を起こすこともある。この急性の症状は、通常原因となる食品タンパク質を少量ずつ断続的に摂取した場合に起こり、24時間以内に症状が消失する。顔面蒼白、低血圧、低体温などにより病的に見えるが、通常、エピソード間は元気で、それ以外は適正な成長および発達を示す。
慢性FPIESでは、体重増加不良、体重減少、貧血、低タンパク血症、低アルブミン血症を来す。粉ミルクまたは大豆乳を毎日摂取することによって、数日から数週間にわたって、血性または粘液性の水様下痢を頻繁に経験し、嘔吐は徐々に増悪する。症状が改善するまでに、通常数日から数週間かかり、より長い期間食物除去を継続する必要がある。
発症年齢の中央値は急性FPIESで約6か月、慢性FPIESで1ヶ月未満である。
慢性FPIESにおいては、原因食物を一旦除去したあとに再摂取することで、急性症状として発症することがある。
FPIESの多くは、学童期までに原因食物に対する耐性を獲得する。
寛解年齢は、原因食物、国、研究デザインによって影響される。
韓国の前向き研究では、23人のFPIES乳児に対し診断と寛解確認のための食物経口負荷試験(OFC)を行い、生後6ヶ月で牛乳27.3%、大豆75%、8ヶ月で41.7%、90.9%、10ヶ月で63.6%、91%の耐性率が報告されています。
Caubetらの160人のFPIES児を対象とした後方視研究では、寛解時期の中央値はオート麦は4歳、米は4.7歳、牛乳(特異的IgEの上昇が無い群)は5.1歳、大豆は6.7歳であった。
スペイン(原因食物は魚が多い)における81人を対象としたコホートでは、5歳までに75%が寛解していた。
オーストラリアでOFCを受けた急性FPIESの小児の後方視研究では、牛乳FPIESの100%が生後20ヶ月までに寛解し、米FPIESの90%および穀物FPIESの75%が3歳までに寛解した。
179名の患者を対象としたフランスの大規模多施設共同後方視研究において、牛乳FPIESの寛解年齢の中央値は2歳で、魚における寛解年齢の中央値2.9歳と、魚の寛解はより遅かった。
Wangらは、米国の大規模な高次医療機関でFPIESを発症した119人の患者において、牛乳の耐性獲得の平均年齢は35ヶ月、穀物の耐性は35.7ヶ月、大豆の耐性は38.4ヶ月であることを明らかにした。
最近行われたドイツの6年間の後方視調査では、慢性FPIESでは、耐性獲得までの期間が16.5ヶ月で、急性FPIESの19.5ヶ月よりも有意に短かった。
原因食物に対する皮膚プリックテストや特異的IgE抗体が陽性になるatypical-FPIESの約25%がIgE依存性食物アレルギーに発展すると報告されている。
これらの症例では、原因食物に対する耐性獲得の初期の段階でIgEを介した反応に移行し不耐性を示すか、あるいは耐性が全く見られない。
かつて、FPIESの原因食物に対してIgE感作が起こると、FPIESの期間が長くなり耐性獲得が遅れると考えられていたが、最近のデータから実際にはそうではないことが判明した。
<原因食物>
乳児期のFPIESでは、牛乳、大豆が多く、いずれかのFPIESと診断された患者の45%~55%は、もう一方にもFPIESとして反応するとされる。
さらに、牛乳または大豆のFPIES児は、固形物に対するFPIESのリスクが高い。
完全母乳児で牛乳FPIESはまれであり、母乳にTGF-βやIgAだけでなく、消化前および部分的に消化された食物抗原も含まれることで、母乳が保護的な役割を果たしていることが示唆される。
一般的な原因食品には地域差があるが、オート麦と米は固形物FPIESの最も多い原因食物と報告されている。
固形物FPIES患者の約60%は、牛乳・大豆いずれかFPIESであった。
ある穀物でFPIESを発症した患者は、50%の確率で他の穀物でもFPIESを発症することがある。
固形物FPIESの患者は、より重度な症状を来し、寛解までの時間が長い傾向がある。
地中海東部では、卵が最も多く、次いで魚、そして牛乳の順で多い。
日本では、近年卵FPIESの発症率が急激に増加している。
米国では、ピーナッツと木の実が誘因として増加している。おそらく乳幼児期の早期摂取が推奨されているためであろう。
<危険因子>
現在のところ、出生前や周産期の母・父の要素でFPIES発症の危険因子となるような因子はデータはない。
イスラエル出生集団コホートで、帝王切開分娩であることと牛乳FPIESとの間に弱い関連が見られた。
最近、アレルギーのない乳児と生後12ヶ月以下のFPIESの乳児の保護者を対象とした横断的調査で、FPIES群では出生前の母親の抗生物質使用が多いことが示された。
母親のマイクロバイオームが変化することで、児のFPIES発症リスクが高まる可能性があるが、この仮説を支持するためには、より多くのデータが必要である。
21trisomyとFPIESの関連性を検討した興味深い報告もあり、人工肛門の手術歴や術後の牛乳による栄養がFPIESのリスクを高めていると推測されている。
<合併症>
FPIES患者の最大55%は何らかのアトピー性疾患を有している。
最も多いのはアトピー性皮膚炎(AD)で、次いで、IgE依存性食物アレルギー、アレルギー性鼻炎、喘息である。この傾向は、成人でも同様である。
同胞間でのFPIES発症はまれで、ほとんどは双生児(一卵性、二卵性)である。
FPIES患者におけるFPIESの家族歴もまれだが、アトピー性皮膚炎やIgE依存性食物アレルギーの報告は非常に多い。
一親等および二親等以内の親族の家族歴として、片頭痛(15%~18%)、胃食道逆流症(12%~16%)、炎症性腸疾患(2%~5%)など、特定の非アトピー疾患が報告された。
FPIESとIgE依存性食物アレルギーが合併したり、FPIES患者の同胞がFPIESであった場合などに、食事制限がしばしば過剰になってしまう。
Pathophysiology>>
FPIESがIgEを介さないプロセスで発症することは確立されているが、特定の原因食物がどのように症状を誘発するのかはまだ明らかではない。
当初、FPIESはIV型アレルギー反応または細胞介在性の過敏反応であると考えられていたが、最近の研究ではこの考え方は否定され、おそらく自然免疫系がFPIESにおける反応の主要なドライバーであると指摘している。
<自然免疫>
Goswamiらは、FPIES児におけるOFCの陽性または陰性に関連する分子変化を後方視的に評価し、非寛解群の方が”単球がより活性化されていたこと"、"好酸球、好中球、NK細胞の活性化マーカー発現の増加していたこと"、”リンパ球数の減少と単球活性化マーカーであるCD69の発現が上昇していたこと"を報告した。
Mehrらは、これらの知見をもとに、全身性の免疫反応がFPIESにおける反応の中心であることを強調し、FPIESの寛解群と非寛解群の転写プロファイルを比較して、非寛解群において、IL-10やTREM1といった自然免疫シグナルに関わる遺伝子や、顆粒球の接着や血管外流出に関わる遺伝子の発現が増加していたことを報告した。
他の研究でも、このような自然免疫の亢進が示されており、FPIES児では、IL-8の上昇が複数の研究で認められ、好中球の動員や関与が増加していることが強調されている。
FPIESを発症した児の臍帯血では、有意に好酸球が増多していた。また、FPIES患者の便には好酸球由来の産物が認められることがある。
Pecoraらは、FPIESの反応発現や時間経過が食中毒と類似していることから、FPIESの反応は細菌感染に対する自然免疫反応に類似していると仮定している。
<獲得免疫>
FPIESでは自然免疫系が主体であると考えられるが、程度はまだよく分かっていないものの細胞性免疫も寄与している可能性が高い。
Goswamiらは、OFC陰性群では、アレルゲン応答性T細胞の減少が認められ、Tヘルパー2(Th2)応答に偏っていることを報告した。
この所見は、Caubetらの研究で観察された牛乳FPIES患者におけるCD4+T細胞増殖とTh2サイトカイン産生の増加によっても再現された。
FPIESにおいて食物抗原に対するT細胞の反応があることは明らかであるが、この反応はIgEを介した食物アレルギーやFPIES寛解群と大きな違いはなく、細胞性免疫はFPIESの反応の中心ではないと考えられる。
FPIESにおける細胞性免疫の重要性は、自然免疫反応を増幅・開始させるという事実にあるのかもしれない。
Kimuraらは、FPIES患者のサイトカインプロファイルとして、活性化T細胞から分泌され、NK細胞の活性を高め、好酸球の成熟を促進するIL-2およびIL-5の発現増加を報告している。
Caubetらは、自然免疫・獲得免疫の両方に関与するIL-10の、OFC前のベースライン値が、FPIES群と比較して、寛解群で高いことを示した。
IL-10は宿主の免疫反応を制限する強力な抗炎症性サイトカインであることから、FPIESの誘因に対する耐性の獲得に関与していることを示唆している。
液性免疫および抗体を介した反応は、FPIESの病態生理にはほとんど関与していないようである。
<自律神経失調と腸内細菌叢>
FPIESの非特異的な全身症状を考慮すると、自律神経機能障害が何らかの形で病態に寄与している可能性がある。
中枢性選択的セロトニン受容体拮抗薬であるオンダンセトロンを治療の中心として使用していること、免疫細胞がセロトニンを合成・処理できることから、神経免疫を介した反応という考え方ができる。
さらに、セロトニンは、腸の蠕動運動、血管拡張、痛みや吐き気の知覚を刺激し、好酸球の走化性因子として機能するため、FPIES患者の腸粘膜生検における好酸球浸潤の組織学的所見を一部説明する可能性がある。
他の食物アレルギー疾患と同様、FPIESにおいても腸内細菌叢の役割に関心が高まっている。
BoyerとScuderiは、アレルギーがない児と比較して、FPIES児の腸内細菌叢の構成に統計的に有意な差があることを評価し、FPIES児は、ガンマプロテオバクテリア(主にEscherich-ShigellaとBalneatrix)とPorphyromonadaceae(主にParabacteroides)が有意に多かったのに対し、対照乳児はPrevotellaが有意に多く見られた。
さらに、Boyerらは、FPIES児は対照児と比較し抗菌薬の使用量が多いことを報告した。
これらの結果は、腸内細菌叢をキーコンポーネントとする腸・免疫・脳連関を支持している。
腸内細菌叢とその代謝物の異常が、消化管のエンテロクロマフィン細胞や腸内分泌細胞を刺激してセロトニンを生成し、局所的には腸の運動障害をもたらし、その中枢作用により抗原を受け付けず、吐き気、嘔吐をもたらすというメカニズムが提唱されている。
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...次回に続きます。
*記載内容に関してはあくまでも個人の解釈、意見の範疇ですので参考程度に捉えてください。
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