【小児IBSに対する低FODMAP食の有効性:エジプトにおけるRCT】

"Effect of the Low Fermentable Oligosaccharides, Disaccharides, Monosaccharides, and Polyols (FODMAP) Diet on Control of Pediatric Irritable Bowel Syndrome and Quality of Life Among a Sample of Egyptian Children: A Randomized Controlled Clinical Trial"
"小児IBS児のQOLに対する低FODMAP食の有効性:エジプトにおけるRCT"
Cureus. 2024 May 24;16(5):e61017.
Sarah A El Ezaby, Ayat F Manzour, Marwa Eldeeb, Yasmin G El Gendy, Diaa M Abdel Hamid
以下、文献へのリンクです
Effect of the Low Fermentable Oligosaccharides, Disaccharides, Monosaccharides, and Polyols (FODMAP) Diet on Control of Pediatric Irritable Bowel Syndrome and Quality of Life Among a Sample of Egyptian Children: A Randomized Controlled Clinical Trial | Cureus
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■この論文を端的に言うと


・低FODMAP食を遵守することで、一般的な食事指導と比較して、IBSの自覚症状スコア(特に腹痛・腹部膨満感・下痢)が有意に改善され、3週目時点で顕著な改善を示し、6週後にはさらに改善が進んだ。

・学校生活などの学業面や心理社会的な項目においても有意に改善した。

・管理においては栄養士との連携が重要である。

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■論文概略
 IBS(過敏性腸症候群)は、小児では日常生活や学業などのQOLに大きく影響し、しばしば成人期まで持続する。また、プライマリケアや救急受診に占める割合も大きく、医療費・医療資源の負担が大きい。

 ストレス・腸内環境・免疫・食物反応など多因子が関連しており、特定の食品で症状が悪化する人も多く、食物アレルギーや不耐症の関与も指摘されている。

 "FODMAP"とは、"Fermentable Oligo-, Di-, Mono-saccharides And Polyols" ="発酵性オリゴ糖・二糖・単糖・ポリオール"の略で、小腸で吸収されにくく、大腸で発酵・ガス産生・浸透圧作用を起こし症状を誘発するとされるこれらを多く含有する食品を制限すること(低FODMAP食)により、IBSによる腹部膨満・疼痛などの症状軽減が報告されている。

※低FODMAP食についての詳細はこちら ~~~~~~~~~~
 除去期、再導入期、個別化期の3ステップからなり、8~14週程度で導入し維持する手法が用いられています。
 日本語版の食品リストが掲載されているこちらのサイトも分かりやすいです。
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 しかし、成人では有効性のエビデンスが蓄積してきているものの、小児IBS・特に地中海地域でのデータは乏しく、今回の研究ではエジプトの小児IBS患者における低FODMAP食介入が、腹痛および健康関連QOLに及ぼす影響を評価することを目的に実施した。

Method>>
 研究デザイン:無作為化二群並行単盲検臨床試験(Randomized Controlled Clinical Trial)
 期間:2020年10月〜2022年1月
 施設:エジプト・カイロのAin Shams大学小児病院外来
 PICO:
  P (Patient);5〜15 歳のRome IV基準を満たすIBS患者 84 例
  I (Intervention);管理栄養士による低FODMAP食の指導 6 週間
  C (Comparison);標準的なIBS食の指導のみ(通常食)6 週間
  O (Outcome);腹痛強度(VAS)、QOLの評価(PedsQL GI Module/Generic Core Scale)
 除外基準:睡眠を妨げるような腹痛・下痢、思春期発来の遅延・成長障害・体重減少、炎症性腸疾患・セリアック病の家族歴、直腸出血、重度の嘔吐・下痢の持続、関節痛、原因不明の発熱や蒼白、器質的疾患、既知の食物アレルギー

 主要評価項目:腹痛強度(Visual Analog Scale: 0=痛みなし〜10=最悪の痛み)
 副次評価項目:PedsQL Gastrointestinal Symptoms Module (ver 3.0) *1 、PedsQL Generic Core Scale (ver 4.0) *2 

 *1:腹部症状の頻度を評価(10 領域:胃痛、食後不快、嚥下困難、逆流、悪心・嘔吐、膨満、便秘、血便、下痢など)
 *2:身体・情緒・社会・学校機能(全 23 項目)。回答は 5 段階(0〜4)で、逆得点化して 0–100 点に線形変換。
 いずれも高得点ほどQOL良好・症状改善を示す。

 これらの基準に基づいて、以下のように介入が行われた。
研究手順:
●低FODMAP群:
 消化器専門医による診断・処方の後、児と保護者に、薬物療法に食事療法を併用する必要性について説明
 目的と方法を説明し、摂取を推奨する食品(低FODMAP)、避けるべき食品(高FODMAP)のリストを配布
 食事記録表を配布し、1日3食および間食の摂取内容を毎日記録
 毎日の食事内容のSMS/WhatsApp送信や電話確認により遵守状況をチェックした
○標準食群
 通常の薬物療法+英国National Institute for Health and Care Excellence(NICE)のIBS管理ガイドラインに基づき指導 (刺激物やジャンクフードの摂取を避ける、十分な水分摂取、規則的な食事など)
→ 両群とも週1回、6週間外来で、PedsQL Gastrointestinal Symptoms Module、腹痛スコア(VAS)、PedsQL Generic Core Scale(最終週)を評価。

 サンプルサイズは先行研究 [Dogan et al., 2020] を参考に、腹痛スコアの減少を主要アウトカムとし、効果量 1.16 で検出力 0.90 として、脱落補正 10 % を加えて各群42 例(計84 例)が登録。
 無作為化は対象者を コンピュータ生成乱数(ブロックサイズ4)により 低FODMAP群 または 標準食群 に割り付け。
 統計解析はSPSS ver. 26 を使用し、正規性検定ののち、群間比較には t検定または Mann–Whitney U、群内比較には paired tまたは Wilcoxon を用い、有意水準 p < 0.05、多変量線形回帰で介入効果の独立性を解析。
 ClinicalTrials.gov 登録番号:NCT05396651、Ain Shams大学 医学部倫理審査委員会の承認を得られており(承認番号:FMASU319/2019)、12歳以上の児からは同意の意思表示を取得し、全ての参加者および保護者から文書による同意を得、研究の目的、手順、参加者の権利について事前に十分な説明を行った。

Result>>
 両群とも男児の割合が多く、低FODMAP群の平均年齢は10.33±2.80歳、標準食群は10.98±2.59歳、参加児童の大半は初等教育段階にあり、両群の社会人口統計学的特性に有意差は認められなかった。

 最も頻度の高いIBS亜型は両群ともIBS-Cであり、IBS亜型に関して両群間に有意差は認められなかった。腹痛の平均持続期間についても両群間に有意差は認められなかった。

 ベースライン(W0)のVASスコア、症状や消化器症状総スコアに統計的に有意な差は認められなかった。低FODMAP群において、3週間の介入後(W3)、腹痛(VAS)、ガスや腹部膨満感、下痢、総合スコアの顕著な改善を示した

 平均VASスコアは低FODMAP群でより大きく減少した。PedsQL Gastrointestinal Symptoms Module および Generic Core Scale は低FODMAP群でより大きく上昇した。 学校機能においても、6週間の介入後、低FODMAP群でより大きくスコアが増加した。

 低FODMAP食介入は、VASスコアを独立して低下させ、PedsQL Gastrointestinal Symptoms Module および PedsQL Generic Core Scaleを独立して増加させることが確認された。スコア改善に対する年齢の影響は認められなかった。

 IBSの主症状である腹痛、下痢、腹部膨満感について、低FODMAP群でより改善が認められ、両群間に有意差が認められた(Fig.2 A、B、D)。低FODMAP食は便秘スコアの改善も誘導したが、両群間に有意差は認められなかった(Fig.2 C)。

Discussion>>
 今回の研究の参加者の平均年齢は約10歳で、性差はなく、Castroら [An Pediatr (Engl Ed). 2019] 、Doganら [North Clin Istanb. 2020] 、Brownら [JGH Open. 2020] の過去の報告と一致していた。

 Doganらは介入2か月後に腹痛のVASが改善したことを報告したが、本研究でも低FODMAP群でVASスコアが有意に改善した。

 Castroらの報告では2週間の介入で有意差が無かったが、本研究は介入期間の長さが奏功した。

 3週時点から腹痛・下痢・膨満などの主要症状が有意に改善した。 6週後もVASとGastrointestinal Symptoms Module の改善は継続し、吐き気・便秘・逆流も改善傾向となり(*統計的有意差はなし)、Brownらの研究結果と一致した。

 PedsQL Generic Core Scaleは低FODMAP群で有意に上昇し、生活の質が改善した。身体的・情緒的・学業的幸福感に加え、家族・友人関係も評価する ”KINDLスコア” を用いたİpekらの結果 [J Behçet Uz Child Hosp. 2021] とも一致している。

 最も影響を受けた領域は、腹痛や頻回排便で欠席・制限を受けやすい学校機能スコアであり、 改善により学校生活への支障の軽減が示唆された。

 本研究は小児IBSにおいて、腹痛VAS、消化器症状、QOLスコアを独立して有意に改善する独立因子としての低FODMAP食の有効性を示した。

 Limitationとして、低FODMAP代替食品の高コストと入手困難さが挙げられ、参加者にはグルテンフリーや乳糖フリーの乳製品など、一部の食品が提供された。さらに、食事介入への参加者の遵守を確保するためには、厳格なフォローアップが必要であった。

Conclusion>>
 本研究の結果は、低FODMAP食を遵守することで、一般的な食事指導と比較して、IBSの症状が有意に改善され、より短期間で患者の生活の質が向上することを示唆した。
 IBSやその他の機能性腹痛障害(FAPD)の患者は主に一次医療現場で受診するため、IBS管理は一般医、消化器専門医、栄養士が連携し取り組むべきである。
 低FODMAP食品は他の食事選択肢に比べて高価であり、手頃な代替食品の確保が急務であることから、政府による支援が不可欠である。
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■所感

 IBSは学校生活を含めた日常生活へ支障をきたし影響も大きく、不登校の一因になることも少なくありません。
 食事指導や運動療法、認知行動療法、薬物療法などが試みられますが、いずれも著効した、という実感が得られないことが多く管理に難渋することも少なくありません。

 そんなIBSに対して、2005年頃より「過敏性腸症候群に対する低FODMAP食」の有効性が提唱されていたようで、2008年に初の臨床試験、2014年に米国で大規模臨床試験が実施され、成人に対するエビデンスが確立されてきており、小児においても本論文のようにデータが蓄積されてきつつあります。

 食物アレルギーと違い、1~数品目を除去すればよいわけではなく、除去食材が広範に及ぶので、特に除去期は大変だとは思いますが、特に管理に難渋しているIBS児にとっては有力な選択肢のひとつになりうると考えられます。

 本報告は単施設・非盲検試験であることや、群間での食事介入以外の治療に関する詳細は不明であったり、有害事象やコスト・入手困難性以外のデメリット、栄養量や成長障害などの長期的な影響には触れられていないこと、またエジプトでの研究であり、普段の食文化や宗教的側面が日本とは同等とは言えないことはLimitationになると思いますが、今後、どのような症例に対してより有効なのか、などより詳細な研究が進めば非常に大きな進歩ではないかと思います。

 興味のある方はぜひ元論文も参照してみてください。

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 *記載内容に関してはあくまでも個人の解釈、意見の範疇ですので参考程度に捉えてください。

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