【Review】FPIAPでは原因食物を除去するべきか否か?

"To Diet or Not to Diet This Is the Question in Food-Protein-Induced Allergic Proctocolitis (FPIAP)—A Comprehensive Review of Current Recommendations"

"FPIAPは原因食物を除去するべきか否か?ー現状の包括的レビュー"

Nutrients. 2024 Feb 21;16(5):589.
Silvia Salvatore, Alice Folegatti, Cristina Ferrigno, et al.

以下、文献へのリンクです
Nutrients | Free Full-Text | To Diet or Not to Diet This Is the Question in Food-Protein-Induced Allergic Proctocolitis (FPIAP)—A Comprehensive Review of Current Recommendations (mdpi.com)
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■この論文のまとめ


 "食物蛋白誘発性アレルギー性大腸炎(FPIAP)"は、一過性の非IgE依存性アレルギー性大腸炎で、全身状態がよく発育良好な乳児において、直腸出血と関連する粘液混じりの血便を呈する。血便は通常、食物アレルゲン(最も多いのは牛乳蛋白:CMP)を除去してから72~96時間以内に消失するが、症例によっては数週間を要し、より厳格な栄養管理が必要になることもある。FPIAPの実際の有病率はまだ不明で、集団や診断基準によって異なり、"健康な乳児の0.2%"から"血便を伴う乳児の64%"まで幅がある。FPIAPは母乳栄養児にもしばしば発症し、アトピー性皮膚炎やその他の軽微な消化器症状を伴うことがある。

 過去5年間に、FPIAPの診断と治療アプローチに焦点を当てた多くの臨床研究、ポジションペーパー、ガイドラインが関連学会から発表されたが、その推奨は様々で、抗原除去の臨床的適切性・妥当性・期間については、いまだに議論の的となっている。このレビューは、現在の推奨を要約して比較し、FPIAP児におけるさまざまな食事療法の長所と短所を明らかにすることを目的とした。

ーFPIAPの病態に関する最新の知見ー

 病態はまだ完全には解明されていないが、T細胞や好酸球が関与する非IgE依存性免疫反応や食物蛋白に対する細胞性免疫反応が一般的に報告されている。直腸粘膜の好酸球浸潤は多くの患者で報告されているが、末梢血好酸球増加と直腸好酸球浸潤の間に相関は認められず 、FPIAPは他の好酸球性疾患やその後の炎症性腸疾患の発症とは関連しない。
 特定のサイトカインの変化も報告され、特にTGF-βの発現低下とTNF-αのような炎症性サイトカインの増加は、上皮バリアもにおけるタイトジャンクションの透過性を増加させ、腸炎を惹起すると考えられる。
 食物抗原に対する自然免疫応答の異常と関連した腸内細菌叢組成の違い(ビフィズス菌や乳酸菌の減少)が、FPIAPの乳児における原因食物に対する耐性の障害に関与している可能性がある。
 さらに、遺伝的素因(アトピーの家族歴)が患者の20~40%に認められる 。
 ある研究では、直腸出血を起こした乳児8人の大腸上皮の微絨毛層にウイルス粒子が電子顕微鏡で検出されたが、便検体では検出されなかった。これらの所見の原因的役割はまだ不明である。

ー食事制限をすべきか否かー

 アレルゲンの回避は、食物アレルギー管理における一般的な推奨である。しかし、FPIAPは健康な乳児における軽度の良性・一過性の疾患と考えられており、出血が自然に消失することもまれではないため、食事制限の適応とその有益性についてはまだ議論の余地がある。現在、世界中でさまざまな推奨と異なる臨床的アプローチが存在する(本文中Table1) 。

>>摂取を継続することを推奨しないとする根拠
FPIAPは乳幼児の血便症例の最大64%において直腸出血の原因である。
直腸やS状結腸に、局所の紅斑、びらん、潰瘍を伴う内視鏡的病変が認められ、好酸球±好中球浸潤による粘膜の炎症が数週間あるいはそれ以上持続することがある。
一部の症例で内視鏡検査により証明された粘膜の炎症が5週間~6ヵ月以上持続することが報告され、特に、初診時の湿疹および大腸粘膜の炎症の存在は、牛乳アレルギー(CMA)の持続と関連していた。複数食品に対する発症の危険因子は、アトピー性皮膚炎の存在、診断時の好酸球数が高いこと、食物アレルゲンに対するアレルギー感作(プリックテストまたは特異的IgE)であると指摘されている。好中球減少(1500/mm3未満)や好酸球増多(450/mm3)は重症度と関連し、食物アレルゲンに対するIgE陽性または非IgE依存性の複数の食物アレルギー、人工乳の摂取(乳児期に少なくとも1回)、離乳食の遅れなどが耐性が遅れることの予測因子であることが示されている。
他のアレルギー疾患への移行、耐性の遅れ、非IgE依存性の複数抗原に対する食物アレルギーの発症は、自然免疫、自然リンパ球および制御性T細胞、炎症性サイトカイン、好酸球、血管透過性の異常、皮膚バリア障害、アレルゲンへの曝露、腸内細菌叢および関連代謝産物が関与する多くの異なるメカニズムに起因する可能性がある。
さらに、妊娠中および授乳期の母親の食事も、FPIAPの持続期間に関与している可能性がある。 ある最近の研究によると、妊娠中のマルチビタミン、授乳中の肉類、冬の果物、緑黄色野菜、バター、塩、インスタント食品、菓子パンの摂取は、血便の長期化と相関していた。反対に、FPIAPの早期改善は、母親の学歴が高いこと、妊娠中のチーズ摂取、授乳中のオリーブオイル摂取と関連していることが判明している。
出血が持続する一部の患者で軽度の貧血が報告されているが、FPIAP患者における鉄の状態と検査結果は一貫して検討されていない。
さらに、早期からの腸粘膜炎症は、後年、機能性消化管障害(FGIDs)の素因となる可能性があり、80人のFPIAP患者を対象とした4年間の追跡調査による前向き研究で、対照群と比較してFGIDの発症率が有意に多く、年齢と性別で調整後のオッズ比は4.39(95%CI、1.03-18.68)で、鉄欠乏性貧血、低年齢での発症、血便の持続期間と有意に関連していた。
腸内細菌叢の異常もFPIAPで証明されているが、食事介入の効果に関するデータはまだ限られている。FPIAPの乳児において、高度加水分解乳にLactobacillus rhamnosus(LGG)を添加したところ、直腸出血が有意に改善した報告がある。
FPIAP患者の大部分では、母児の食事からCMPを除去するとまもなく血便は消失し、複数の食品を避ける必要はほとんどない。大部分は生後6~12ヵ月までに牛乳耐性が獲得される。便に血液が混じることは両親にとって心配の種であり、不安を感じたり罪悪感を抱いたりすると、乳汁分泌の減少や母乳育児の中止の原因となりうる。

>>除去が必ずしも必要ではないとする根拠
母親に対する抗原除去は、FPIAPが軽度かつ一過性で自然に解消される可能性があるため、普遍的には推奨されない。前向き研究で、直腸出血のある40人の乳児を対象に、CMPの摂取を続けるか除去するかを比較した結果、20%は自然に血便が解消したが、80%は血便が遷延し、CMPの除去は直腸出血の日数に影響を与えなかった。別の研究では、CMPを早期に再導入した14人のうち11人に再発は見られず、これらの児は除去食を続けた乳児よりもCMP摂取開始が有意に早かったことが示され(6.7±1.6ヵ月 vs 17.7±9.2ヵ月、p = 0.002)、生後1年時点のHb値にも差はなかった。
CMPの除去は授乳期間やQoLに悪影響を及ぼす可能性がある。母親が原因食物を避けようとしても、すべてのアレルゲンを除去できないか、遵守が難しいため、授乳中の児は断続的な出血を呈することがある。ある研究では、FPIAPの授乳中の乳児95人中33人がCMP除去に反応せず、他の食物アレルゲン(卵、トウモロコシ、大豆、複数の除去食)の除去が必要で、4人はアミノ酸乳を必要とした。FPIAPと診断された60人の乳児のコホートでは、全員がCMPによって引き起こされ、6.6%は卵、3.3%は鶏肉、1.7%は小麦、1.7%はジャガイモ、3.3%は複数の食物アレルギーと関連していた。この集団では、53%が1歳までに耐性を獲得し、25%が2歳までに、5%が3歳までに、1.7%が4歳までに耐性を獲得した。
現在のガイドラインや文献データによると、人工乳栄養の児のCMP除去は、一般的に高度加水分解乳またはホエイベースの粉ミルク(eHF)でなされ、FPIAP児の10%はアミノ酸乳を必要とした。
多くの国では、高度加水分解乳やアミノ酸乳は、標準的な粉ミルクよりもはるかに高価であり、医療制度からの払い戻しは地域差が大きい。さらに、味覚の発達、長期的な食の嗜好性、除去食を摂取していた乳児の哺乳困難が懸念される。また、直腸出血は乳児期のアレルギーの特異的徴候ではないため、誤診も起こりうる。血便のある児に除去食を開始する前に、裂肛、消化管感染症、メッケル憩室、乳児ポリープ、腸重積、腸軸捻転、新生児壊死性腸炎、凝固異常、超早期発症型炎症性腸疾患などの鑑別を要する
母乳栄養児の5~42%において、母親のCMP除去期間中も血便が持続することがある。このような場合、母親の除去の遵守状況を確認し、必要であれば、大豆や卵などの他の食物タンパクを除去することが推奨される。しかし、このような食事制限の延長は、栄養不足と母親の苦痛を引き起こす可能性がある。
直腸出血が長期間持続し、母親の多種の抗原除去食でも消失しなかった14人の母乳栄養児に対し、母乳栄養を中止しアミノ酸乳を開始した小規模研究もあるが、どのガイドラインもFPIAP児には母乳育児を継続することを推奨しており、これらの患者におけるアミノ酸乳の使用は耐性の獲得遅延と関連している。

>>"Watch and Wait"アプローチ
2018年にイタリアのグループが、除去を開始する前に直腸出血の発症から1ヵ月は経過観察することを提案した。 さらに、除去指導を受けた児の血便が消失した後すぐに再摂取を行い、原因食物の再導入時に再発した場合には、3ヶ月間除去を継続することも提案している。この早期のチャレンジは、EAACI、WAO DRACMA、ESPGHANのポジションペーパーにおいても支持されている。
しかし、別の研究では、生後6ヵ月以内に再導入すると3日以内に出血が再発することが多いと報告されており、一般的には推奨されていない。
血便や潜血は除去をせずとも数週間で消失することを示す別の報告もあり、2~4週間の保存的アプローチは臨床的に可能であると考えられる。
FPIAPの予後は良好で、乳児の20%で出血が自然に消失する可能性があり、ほとんどの患者(ASCIAによれば95%)で3~12ヵ月以内に耐性獲得するが、まれに一部の症例で3歳まで耐性獲得に要することがある。

 FPIAPの乳児における原因食物の除去食の長所と短所のまとめ
    [本文Table2]を参照ください。

>>その他の治療アプローチ
●プロバイオティクス
 FPIAPでは、ビフィズス菌と乳酸菌の数が減少する腸内細菌叢の変化が報告されている。LGGの特定株は、このプロバイオティクスを添加した高度加水分解乳を与えたアレルギー児のコホートにおいて、腸管透過性、粘膜炎症、サイトカインに対する有益な効果、および耐性の獲得に対する有益な効果を示した。FPIAP児のグループにおいて、高度加水分解乳は、プロバイオティクスを含まない高度加水分解乳を与えた対照群と比較して、血便の消失と牛乳に対する耐性の獲得を早め、便中カルプロテクチンの値を有意に減少させた。注目すべきこととしては、FPIAPの母乳栄養児(生後6ヵ月未満)を対象とした二重盲検ランダム化比較パイロット試験では、CM除去の補助としてLGG(3×109コロニー形成単位、1日2回、4週間)(n=14)を用いても、プラセボ群(n=15)と比較して血便の期間は短縮せず、直腸出血の平均期間は両群で同程度で、72時間以内に直腸出血を来さなかった乳児の数や血便の再発にも差はなかった。一方、FPIAPの4例で、LGG単剤療法で食事制限無しに直腸出血が7-28日で消失した。

●抗炎症薬
 持続的な出血(肉眼的血便もしくは潜血便)により重症FPIAPと診断された乳児において、メサラミン(5-ASA)治療と成分栄養剤の効果を評価した後方視研究において、介入群では、メサラミンが40~60mg/kg/日の用量で平均100日間投与され、対照群と比較して、胃食道逆流症状/嘔吐、便の硬さ、易刺激性、食欲、発育、窒息/嚥下、背中の反り、腹鳴の改善率が有意に高かった。しかし、皮膚炎や血便・粘液便には有意差は認められなかった。メサラミン投与群では、15ヵ月時と14ヵ月時にそれぞれ牛乳(22% vs 85%)または豆乳(22% vs 42%)を再導入した際の血便の発症率が低かった。
 FPIAPは良性で軽症、自然寛解する疾患であることから、治療に免疫抑制剤や生物学的製剤を用いた研究はない。

―研究課題—

 この文献レビューから浮かび上がってくるのは、FPIAP児において、まだ多くの問題をさらに解明する必要があるということである。
・病態に関与する免疫機構の正確な解明は、予防戦略、治療アプローチ、寛容誘導において極めて重要である。自然免疫、好酸球、制御性T細胞およびサイトカイン、腸内細菌叢、ウイルス粒子の役割は完全には解明されておらず、食物タンパクに対する炎症がなぜ直腸とS状結腸に限局するのか、その理由もまだ不明である。
・特異的な徴候や正確な非侵襲的バイオマーカーが無いため、除去に関係なく血便が消失する直腸出血の児では、FPIAPの過剰診断につながる。直腸生検と除去後の再摂取は、限られた患者にのみ実施されるため、直腸出血の乳児における食物アレルギーの正確な有病率はまだ不明である。
・アレルゲン回避による食事療法(多くの場合、CM除去)が臨床における一般的な介入である。しかし近年、抗原除去の必要性と期間に関する議論が高まっており、上記の報告のように推奨事項はさまざまである。
・原因食物の再導入のタイミングは、依然として未解決の問題である。
・非IgE介在性食物アレルギーはしばしばIgE介在性アレルギーと併発する。FPIAPは、非IgE依存性アレルギーマーチの初期段階において役割を果たしている可能性があるが、同時にIgE依存性アレルギーの発症の可能性も示している。
・腸内細菌叢の特徴およびFPIAPの治療におけるプロバイオティクスの使用の有用性については、さらなる調査が必要である。

―結論—

 FPIAPは、通常、健康な母乳栄養または人工乳栄養の乳児に直腸出血を引き起こす。食物アレルゲンの除去により速やかに出血が消失するが、一部の患者では自然に出血が消失することも報告されており、FPIAPにおいて全面的なCMPの除去は推奨されていない。軽度の直腸出血がある母乳栄養の児については、2〜4週間の"Watch and Wait"アプローチが考慮される。一方で、持続的な出血のリスク因子や親の不安がある場合、除去は妥当だろう。直腸出血が消失した後、除去した食品を再導入することが推奨され、これによりFPIAPの診断が確定し、不必要な長期の制限を回避することができる。多くの児は1歳までに耐性を獲得するが、一部は早期に、また一部では最大3年まで遷延することがある。最近のデータからは、除去後3か月で再導入のトライを考慮すべきである。

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■所感
 
 FPIAPの治療方針として原因食物の除去は、まだまだ世界的に意見の分かれるところです。
 私個人としては、基本的に普遍的な除去は行わないスタンスですが、出血の量・頻度や貧血の有無、ご家族の不安なども鑑み、3-6か月程度のなるべく短期間に留める前提で母の乳摂取制限や高度加水分解乳もしくはアミノ酸乳への変更を提案しています。現時点で推奨される定まった治療方針が無いことから、case by caseで総合的な判断により方針を決めるしかないですが、"Watch and Wait"アプローチは重症度や予後も踏まえて臨床に即しているのではないかと感じました。

 本文中にも記載がありますが、他の外科的疾患を除外し、全身状態が良好であることがFPIAPの大前提です。侵襲度の高さや新生児や乳児の検査が可能な内視鏡施設は多くないことから、なかなか大腸内視鏡検査・粘膜生検のハードルは高いのが現状ですが、鑑別疾患の緊急性や重症度をもとに優先順位をつけて除外を怠らないことが診断においては重要と考えます。

 基本的には軽症なので、同じnon-IgE-GIFAsのFPIESやFPEと比べると医療者としても重要視されていない印象はありますが、血便が続くとご家族の心配は尽きないと思います。
 より早期の寛解につながり、患児・家族への負担の少ない管理方法を探っていきたいものです。

 興味のある方はぜひ元論文も参照してみてください。

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 *記載内容に関してはあくまでも個人の解釈、意見の範疇ですので参考程度に捉えてください。

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