【事後解析】バロキサビル(ゾフルーザ®)の小児例での安全性と効果

"Safety and Efficacy of Baloxavir Marboxil in Influenza-infected Children 5–11 Years of Age: A Post Hoc Analysis of a Phase 3 Study"
"5-11歳のインフルエンザ罹患児における、バロキサビル マルボキシル(ゾフルーザⓇ)の安全性と効果―第3相試験の事後解析―"
Pediatr Infect Dis J. 2023 Nov; 42(11): 983–989.
Jeffery B. Baker, Stanley L. Block, Steven E. Cagas, Laura Burleigh Macutkiewicz, et al.

以下、文献へのリンクです
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■この論文のまとめ

 インフルエンザに対するバロキサビルの安全性と有効性は、複数の第3相試験に基づいている。
 “CAPSTONE-1”、”CAPSTONE-2”は、12歳以上のインフルエンザ患者を対象に、バロキサビルをプラセボまたはオセルタミビルと比較評価した、第3相無作為化二重盲検試験である。
 いずれの試験でもバロキサビルは良好な忍容性を示し、オセルタミビル/プラセボに対し優れたウイルス学的有効性を示した。症状の緩和においてもプラセボより優れており、オセルタミビルと同程度であった。
 “BLOCKSTONE”では、バロキサビルの予防投与により、家庭内接触者のインフルエンザ発症リスクがプラセボに対して86%有意に低下し、忍容性も良好であることが示された。

 また、12歳未満の小児においても"miniSTONE-2" (Pediatr Infect Dis J 2020;39:700-705) においてバロキサビルの忍容性と有効性が確認されている。
 1~12歳の小児計173例を対象に、バロキサビル群(115例)とオセルタミビル群(58例)を無作為に割り付け比較した試験である。
 有害事象の発現率・重症度は同等で、症状緩和までの時間も同等であった。ウイルス排出停止までの時間はオセルタミビルと比較してバロキサビルの方が低かった。
 変異ウイルス(PA/I38X)の割合は、5~11歳の小児と比較し5歳未満の小児で高かった。
 バロキサビル経口投与は、インフルエンザに罹患した健康な小児において忍容性が高く、症状の緩和に有効であった、と結論付けられている。

 今回のminiSTONE-2のpost hoc解析では、インフルエンザ様症状を有する5~11歳の健康な小児患者を対象に、オセルタミビルと比較したバロキサビルの安全性と有効性を評価した。

方法
 もともと1~5歳未満と5~11歳で並行して登録されており、本報告では5~11歳のコホートについて解析する。
 登録された児は、スクリーニング時の発熱と呼吸器症状からインフルエンザ感染の臨床診断を受けた。
除外基準:入院治療を必要とする重度のインフルエンザ症状を有する児や、スクリーニング時に全身抗ウイルス療法を必要とする感染症を併発している児
 重度のインフルエンザ症状に対してはアセトアミノフェンの投与が許可された。

主要評価項目:有害事象の発症率、重症度とタイミング、重篤な有害事象、バイタルサイン、臨床検査値
副次評価項目:症状緩和までの時間、発熱期間、通常の健康状態や活動に戻るまでの期間、インフルエンザ関連合併症の頻度、抗生物質を必要とする児の割合、ウイルス排出停止までの時間・ベースラインからの変化

結果
 ベースライン特性は両群間で類似していた。
 有害事象の発現率はバロキサビル群(44%)とオセルタミビル群(44%)で類似し、すべてグレード1または2であった。ほとんど(96%)は試験終了時には消失していた。
 重篤な有害事象、入院、死亡は無く、臨床検査値やバイタルサインに関して、ベースラインからの有意な変化は認められなかった。

 発熱持続時間の中央値[41.2時間(23.5-51.4) vs. 51.3時間(30.7-56.8)]、全症状持続時間の中央値[66.4時間(41.7-76.4) vs 56.0時間(41.2-78.5)]、および通常の活動に戻るまでの時間の中央値[118.2時間(94.8-138.6) vs 111.1時間(80.8-118.7)]は、群間で同等であった。

 ウイルス排出停止までの時間の中央値は、バロキサビル群[24.1時間(95%CI:23.3-24.6)]が、オセルタミビル群[75.8時間(69.3-95.6)]に比べ、短かった。
 症状緩和までの時間の中央値は、バロキサビル群138.4時間(95%CI: 116.7-163.4)に対し、オセルタミビル群126.1時間(95.9-165.7)と、2つの治療群間で同等であった。

 ベースラインからのインフルエンザウイルス力価の平均変化量は、オセルタミビル群と比較して、バロキサビル群で2日目により大きく低下した。2日目にはバロキサビル群でプラトーに達し、オセルタミビル群でも同日プラトーに達した。オセルタミビル群では、ベースラインからの平均変化は3日目以降に停滞し、以降は、各群のベースラインからの差は同等であった。

 インフルエンザ感染がPCRで確認された94人のうち23人(24.5%)が他のウイルスとの重複感染を有していた[バロキサビル:18/61人(29.5%)、オセルタミビル:5/33人(15.2%)]。

 ベースライン検体で塩基配列が特定された53例のうち、バロキサビルに対する感受性低下と関連する既存のI38X変異を有する小児はいなかった。バロキサビルによる治療を受け、ペア検体(投与前後)を得た41例のうち、6例(14.6%)で治療に起因するI38X置換が認められた。
 12例は、治療後にウイルスが検出されなかったか、低レベルであり、配列決定を行うことができなかった。

結論
 バロキサビルのリスク・ベネフィット・プロファイルは、5〜11歳の小児で良好であった。
 安全性、有効性、ウイルス学的結果は、5~11歳の患者と、1~11歳の患者を対象とした試験全体の集団とで同様であり、バロキサビルが小児でも忍容性が高いという知見を支持するものであった。
 有効性はバロキサビルとオセルタミビルの間で同等であり、バロキサビルはオセルタミビルと比較して感染性ウイルス価の低下がより速かった。
 バロキサビルの単回投与は、5~11歳の小児インフルエンザ患者に対する新たな治療選択肢となる。


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■所感

 新型コロナウイルス(SARS-Cov-2)の騒ぎも冷めやらぬ中、大方の予想通り、その間沈黙を保っていた多くのウイルスが大流行を起こしました。
 RSウイルス、アデノウイルス、手足口病/ヘルパンギーナ、感染性腸炎…
 なかでも、インフルエンザウイルスの久しぶりの大流行は小児・成人を問わず、多くの方が罹患し、社会活動にも大きな打撃を与えたものであったと思います。

 抗インフルエンザウイルス薬は、2000年以降、リレンザに始まり、異常行動が騒ぎになったタミフル(*現在はタミフル内服とインフルエンザ罹患時の異常行動に因果関係は無いとされています)、イナビル、ラピアクタ、と新薬が登場していました。
 直近の最も新しい抗インフルエンザウイルス薬はゾフルーザ®(バロキサビル)で、2018年に発売された新薬でした。タミフルが1日2回・5日間の内服を要し、イナビルは1日1回・1日間ですが吸入薬で、ラピアクタも点滴静注で薬価も高い、などそれぞれ利点・欠点を持ち合わせている中、ゾフルーザは経口で1日1回・1日間のみの内服で完結するという、痒い所に手が届くお薬でした。
 しかし、臨床試験データから、ゾフルーザの内服により変異ウイルスが検出されゾフルーザ耐性株の出現が他剤に比較し頻度が高いようであり、その後あまり広まらないまま新型コロナウイルスの流行により出番を無くしていたものと思います。

 その後の解析で、変異株の検出頻度はタミフルなどと比較し有意に高いわけではないこと、若年ほど変異株の出現頻度が高いことなどがわかってきて、有効性も他剤に劣らないことから、2023年4月には、日本感染症学会からゾフルーザは12歳以上の青少年および成人に対してはタミフルと同等の推奨度となっていました。
 さらなる臨床データの蓄積により、2023年11月には、日本小児科学会より"2023/24シーズンのインフルエンザ治療・予防指針"が発行(小児科学会HP:予防接種・感染症情報)され、小児に対するゾフルーザの立ち位置に関して、

12 歳以上の小児のインフルエンザに対して抗インフルエンザを投与する場合は、同薬を他剤と同様に推奨。
6~11歳の小児については、 情報の蓄積を行いながら慎重に適応を検討することを提案。
5 歳以下の小児では耐性変異を有するウイルスの排泄が遷延する可能性があり、20kg未満の小児に対する顆粒製剤の使用は承認されておらず、錠剤の服薬は困難と考えるため、同薬の積極的な使用を推奨しない。

とのコメントが発表されています。
 今回紹介した論文は、この"6~11歳の小児に対するゾフルーザの投与"に関して、後押しする内容となっており、今回の指針にも引用されている論文でした。

 2024年1月の現時点では錠剤しか剤型が無いことから、低年齢児への投与はそもそも難しく(粉砕が許容されるかどうか、情報を持ち合わせておりません。。)、これまで通りイナビルもしくはタミフルの投与が中心になるかと思いますが、特にタミフルに関しては、体調の悪い中5日間しっかり内服を続けるというのはなかなか困難だろうと予測されます(本文中でも触れられていますが5日間の内服の完遂率は意外と高くないようです)。
 錠剤を内服できる高学年以上の学童であればゾフルーザが選択肢に入ってくるかな、という論文、並びに指針を紹介させていただきました。

 1回きりの内服で完遂できる治療は、特に年少児やその保護者の方にとっては軽減される負担は計り知れないもので非常に有益ですので、今後はドライシロップが登場し、リアルワールドでは変異株の検出率がそれほど高くないことや実臨床では効果に影響がないことなど、よりポジティブなデータが蓄積してくれば、期待していきたいところです。


 興味のある方はぜひ下記全文や、引用元論文も参照してみてください。

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※論文本文は今回より割愛させていただきます。興味のある方はぜひ元論文を参照ください。)


 *記載内容に関してはあくまでも個人の解釈、意見の範疇ですので参考程度に捉えてください。

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