【前向きコホート】ギリシャにおけるAtypical FPIESの特徴

"Atypical Food protein-induced enterocolitis syndrome in children:Is IgE sensitization an issue longitudinally?"
"小児のAtypical FPIES:IgE感作は長期的な問題か?"

Allergol Immunopathol (Madr). 2021 May 1;49(3):73-82.
Athina Papadopoulou, Theano Lagousi, Elpiniki Hatzopoulou, et al."


以下、文献へのリンクです
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■この論文を端的に言うと

・原因食物に対するアレルギー感作を示す"atypical FPIES"が、FPIESと異なる臨床的特徴や転帰を示すのかどうかは不明で、FPIESが遷延することで、アレルギーマーチを呈する他のアレルギー性疾患と同様のパターンをとるかどうかは明らかではなかった

・Nowakらの基準に基づいて診断されたギリシャの100例のFPIES患者を対象に、前向きに追跡調査(平均92±54.4ヵ月、24~144ヵ月)した。
原因食物に対するIgE感作は15%に認められ、魚で16.12%、牛乳で17.8%に感作がみられた。食物に対する感作とFPIESのタイプとの間に有意な関係はなく、湿疹の既往やアレルギー疾患の家族歴も感作とは関連していなかった
・計55例が原因食物に対する耐性を獲得(中央値 78ヵ月[62-93ヵ月])し、寛解率は、湿疹の有無やアレルギー疾患の家族歴とは相関せず、IgE感作とも無関係であった
・追跡期間(92±54.4ヵ月)中に、25人が喘息症状を呈し、このうち14人(56%)が吸入抗原に対するIgE感作を有していた

・FPIES症例において、食物に対するIgE感作は、耐性に影響しなかったが、むしろ喘息の素因となる吸入抗原に対するIgE感作と関連していた。
・耐性獲得が遅れることで、呼吸器症状の素因となるTh2免疫活性化の長期化・持続にもつながる可能性がある。

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■所感

 FPIESは原因食物に対する特異的IgE抗体が陰性の食物アレルギー症候群ですが、過去の報告から約3割程度で特異的IgE陽性を示す症例があり、"atypical FPIES"と呼ばれます。
 これらの症例では、FPIESとして寛解しても一般的なIgE依存性の食物アレルギーに移行したり、FPIES自体が遷延しやすい、と報告されていましたが、定まったコンセンサスは無い状況です。

 今回の論文では、これまでの報告とは対照的で、原因食物へのIgE感作は、寛解までの期間には影響しなかった、かつ、気管支喘息の原因となる吸入抗原への感作のリスクが上昇する、という結果でした。

 食物への感作と合わせて吸入抗原も皮膚から感作が成立したものかと思いましたが、湿疹やアトピーの罹患率など皮膚状態に群間差は無かったようです。
 筆者らは腸管におけるTh2炎症の遷延を各種IgE感作の一因として挙げていますが、基本的には除去対応となっていると思われるFPIESの原因食物や、空気中に含まれる抗原が、どの程度腸管内に取り込まれて感作を引き起こすのか、というところは疑問に感じました。
 しかし、原因食物だけでなく、将来的なアトピーや喘息の発症に関連する吸入抗原への感作に着目してatypical FPIESの自然予後が論じられており非常に勉強になりました。

 まだまだ病態や管理方法なども未知の部分が多いFPIESですが、これまでにもいくつか投稿しているように少しずつ解明が進んできています。
 しかし、現時点では原因食物の完全除去のうえ、自然耐性獲得を確認できるまで定期的に負荷試験を繰り返すしかない、という状況です。
 今回の報告は、FPIESのアレルギー疾患としての位置づけ・認識をより深める結果だと思います。IgE依存性の食物アレルギーと同様に、完全除去以外に寛解期間を短縮できる治療法を模索していきたいものです。

 興味のある方はぜひ下記全文や、引用元論文も参照してみてください。

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■論文本文
INTRDUCTION>>
 食物蛋白誘発胃腸炎症候群(FPIES)は、非IgE依存性の、特徴的な食物アレルギー症候群であるが、そのまれで非典型的な症例については、最近発表された国際コンセンサスガイドラインにおいても、まだ十分に理解されていない。
 "atypical FPIES"という用語は、1998年にSichererらによって初めて使用され、現在では、FPIESと一致する臨床経過を示し、かつ原因食物に対するアレルギー感作を示す症例のことを指す

 FPIESは、主にTNF-αの産生増加と、自然免疫細胞の活性化、TGF-βおよび食物特異的IgAの不適切な分泌が特徴とされる、病態生理学的に局所的および全身的な免疫学的反応を基礎とする非IgE依存性疾患に分類される。
 さらに、牛乳FPIESでは、体液性免疫反応と細胞特異的免疫反応の両方が弱いか、あるいは消失していることが示されている。著者らは、総IgE、血清中の特異的IgG4の値が有意に低く、制御性サイトカインであるIL-10の分泌も少ないことを報告している。
 一方、acute FPIESにおいて、IL-4およびIL-5が高値を示し、末梢T細胞におけるIFN-γの発現が低下していた症例が1例報告され、ヘルパーT2細胞(Th2)に偏った反応が示唆された。
 さらに、原因食物に対するIgEを介した一般的なアレルギーの機序との関連のあった症例ははほとんどなく、それらの症例では疾患の経過はより長引いていた。加えて、肥満細胞の局所的産生が抗原の取り込みを促進し、びまん性大腸炎を促進する可能性も指摘されている。

 IgE感作の併発が、異なる臨床的特徴や転帰経路を示すFPIESの多様な表現型において構成要素となるのかどうかは、まだ不明である。
 さらに、最近の総説では、非IgE依存性食物アレルギーの持続がIgE依存性疾患(鼻炎や喘息)の発症と関連しているとする観察研究が強調されているが、これらの症例が、いわゆるアレルギーマーチを呈する他のアレルギー疾患と同様のパターンをとるかどうかは明らかではない。
 本研究は、IgE感作を伴う/伴わないFPIES症例の非典型的な臨床像と長期予後、IgEに依存しないアレルギーマーチを来す可能性を評価することを目的として実施された。


METHOD>>
・患者の組み入れと食物負荷試験
 急性および慢性FPIESは、Nowak-Węgrzynらの基準に基づいて定義した。ギリシャ中部および南部から、2008年1月から2017年12月までの10年間に、アレルギー・呼吸器科に紹介されたFPIES患者が登録された。
 患者のデータ(年齢、性別、原因食物、発症時期、臨床症状、自己申告によるアレルギーの家族歴、湿疹)は、ベースライン時に記録された。 
 食物に対するIgE感作は、診断時に皮膚プリックテスト(SPT)および市販の抽出液(ALK-Abello、Horsholm、デンマーク、およびRAST、Pharmacia Diagnostics AB、Uppsala、スウェーデン)を用いた特異的IgE抗体価測定により評価された。
 SPTには、牛乳、卵(卵黄・卵白)、魚、ナッツ類、穀類、軟体動物が含まれた。血清特異的IgE値≧0.35 KU/L、SPTの膨疹径≧3 mm を陽性とみなした。
 確定診断に至らなかったFPIES症例において診断確定目的に、耐性確認のために、経口食物負荷試験(OFC)を実施した。

・寛解年齢と長期フォローアップ
 すべての患者を、初診時から2019年6月まで前向きに追跡調査した。
 患者は6ヵ月おきに評価した(臨床状態、他のアレルギー症状、原因食物の偶発的な摂取の有無と反応の有無)。
 乳製品または卵(ゆで卵または卵焼き)の摂取状況を記録した。
 寛解年齢は、自主的な摂取または家庭での再負荷による評価を行ったOFCのいずれかにより記録された。
 IgEプロファイルと関連して、牛乳、卵、魚の寛解年齢について詳しく評価した。
 さらに、喘息の発症に関して、すべての患者を前向きに追跡調査した。過去1年間のフォローアップにおいて呼吸症状を有する場合に現在呼吸症状ありとした。スパイロメトリー、SPT、および吸入抗原(ヤケヒョウヒダニ、コナヒョウヒダニ、アルテルナリア、バミューダグラス、ヒロハノウシノケグサ、オオアワガエリ、オリーブ、 カベイラクサ)に対する特異的IgE(sIgE)検査が症状に応じて実施された。
 本研究プロトコルは、当小児病院の施設審査委員会の承認を得ており、すべての被験者の保護者から書面によるインフォームド・コンセントを得た。

統計解析
 本研究は、前向き・記述的・縦断研究である。
 最終的に100人の患者が評価されたので、FPIESの全症例に言及する場合は、パーセンテージと実数が対応していた。その他の項目に関しては、百分率を用いた。
 データの正規性はKolmogorov-Smirnov検定で評価し、95%信頼区間(CI)を記録した。
 記述分析は、連続変数の中心傾向と分散を計算するために、ノンパラメトリック独立標本についてはMann-Whitney U検定とKruskal-Wallis検定を用い、名目変数の比較にはカイ二乗検定とPearsonのr、またはSpearmanのρを用いたリスク係数を用いた。
 二変量データは、臨床症状のタイプ(急性または慢性)、IgE機序の有無、アレルギー疾患の合併の有無によって評価した。
 Kaplan–Meier生存分析を時間対事象法として適用し、様々な食物におけるFPIESの寛解年齢確率とアレルギー背景との関係を推定した。
 Log-rank検定を用いて、FPIES症例の異なる臨床的サブグループにおける寛解時期の中央値を比較した。
 Cox回帰分析により、異なる食物やアレルギー歴を持つ患者間の寛解率(PT)比(95%CI)を評価した。PT=1の場合、因子間の関係は認められず、PT>1の場合、FPIESの早期発症に正の影響が、PT<1の場合、負の影響があると判断した。
 食物または吸入抗原に対するIgE感作をさらに重回帰を用いて分析し、呼吸器アレルギー症状との相関を検討した。
 Kaplan-Meier分析とハザード関数を用いて、呼吸器症状の発現に対する感作の縦断的影響を評価した。
 統計的有意性はP < 0.05とした。統計解析にはSPSS v20.0(IBM, Chicago, IL, USA)を使用した。

RESULT>>
・FPIESの概要と発症時のアレルギー症状
 様々なアレルギー症状で紹介された14,888例中、FPIESと確定診断された100例(0.7%)を対象とした。
 診断が確定できない、追跡期間が24ヵ月より短いなどの理由で9例が除外された(図1a)。
 有意な性差は認められなかった(男性55人)。
 最も頻度の高い原因食物は魚で、次いで牛乳、卵、鶏肉、エビであった。魚類ではタラが最も多く、スズキ、イワシ、トビウオ、タイが各1例であった。
 卵に関連したFPIESのうち、1例は卵黄のみが原因であった。
 患者の大部分は急性であった(89例)。慢性の患者は11例で、すべて牛乳が原因食物であった。
 90例のFPIES患者では嘔吐が主な症状であった(図1b)。
 慢性患者では主に下痢と中等度から重度の胃食道逆流を呈したが、嘔吐は主な症状ではなかった。
 診断が遅れ体重増加不良を呈したのは2例のみであった。
 2例で母乳栄養中に牛乳を摂取した後に急性の蕁麻疹を発症したが、IgEは陰性であった
 これらの確定診断に至らなかった症例では全例診断確定のためにOFCを施行し、遅発性の嘔吐を認めた。
 急性FPIES症例のうち、33例は輸液を要する、もしくは活気不良のため入院が必要であった。
 牛乳FPIESは入院と有意に関連する因子であった(OR、95%CI:2.75、1.11-6.80)
 症状出現時の平均月齢は9.8±7.4ヵ月で、離乳食の進め方や原因食物により異なっていた。食品別では平均月齢は牛乳で2.8±2.4ヵ月、卵で11±5.9ヵ月、魚で13±6.7ヵ月であった。

 原因食物に対するIgE感作は、FPIES 100例中15例(15%)に認められた。
 魚FPIESでは16.12%、牛乳FPIESでは17.8%に感作がみられた。
 食物に対する感作とFPIESのタイプ(急性か慢性か)との間に有意な関係はなかった(OR、95%CI:1.19、0.23-6.18)
 湿疹の既往(OR、95%CI:2.50、0.68-9.68)家族内のアレルギー疾患の有無(OR、95%CI:1.0、0.59-1.59)は、感作とは関連していなかった

・FPIESの転帰
 平均追跡期間は92±54.4ヵ月で、24ヵ月から144ヵ月であった。
 6例の魚FPIES患者で拒否のためOFCは実施できず、他に4人が追跡調査不能となった。これらの患者の臨床的および検査上の特徴に有意差はなかった。
 最終的に、82名の患者においてOFCを実施し、耐性獲得を確認もしくは否定し、8例は自己申告で寛解が報告された。
 生後12ヵ月未満でOFCを行った者はいなかった。
 合計で55例が原因食物に対する耐性を獲得し、35例でOFCが陽性であった。
 全患者の耐性獲得年齢の中央値は78ヵ月(62-93ヵ月)であった。
 全患者の5年後および10年後の寛容獲得率は、それぞれ44%および69%であった(図2a)。
 寛解率は、湿疹の有無やアレルギー疾患の家族歴とは相関しなかった(表1)。
 さらに、寛解率はIgE感作とは無関係であった(表1、図2b)。

牛乳
 牛乳FPIESの患者は、中央値生後20ヵ月で牛乳に対し寛解が得られた(図2c)。興味深いことに、3例のIgE陰性の患者で生乳に陽性反応を示したが、ヨーグルトやチーズなどの他の乳製品は問題なく摂取できた。加工乳製品を摂取できるようになったので、FPIESは寛解したと判断した。
 寛解までの期間の中央値は、慢性と急性、牛乳に対するIgE感作有りと無しとの間で、有意差は認められなかった(それぞれP = 0.64, 0.89;図2d)。

 魚FPIESの症例は、他の食品に対するFPIES症例と比較して、有意に寛解が遅かった(表1)。 5年後と10年後の寛解率は、それぞれ11%、48%のみであった(図2c)。魚のOFCでの寛解確認年齢の中央値は115ヶ月と推定された。 
 食物に対する感作のある群と無い群との間で、最初の6年間における耐性の獲得率には差があったが、追跡期間全体での耐性獲得年齢の中央値に有意差は認められなかった(P = 0.43、図2d)。

 卵FPIES患者7名全員がOFCを行い、うち5名で陰性であった。卵のOFCが陰性であった年齢の中央値は38.2(29-48)ヶ月であった。卵FPIES患者の28.5%は、研究期間終了時まで生卵に対してはアレルギー症状を有したが(図2c)、焼き卵は摂取可能であった。われわれの研究では、IgE感作を有する卵FPIES患者はいなかった

・呼吸器アレルギー症状の長期追跡
 研究の追跡期間(92±54.4ヵ月)中に、25人の患者が喘息症状を呈し、このうち14人(56%)が研究期間中に吸入抗原に対するIgE感作を有していた(表2)。
 食物に対するIgE感作を有するFPIES患者は、吸入抗原に対してさらなる感作のリスクが統計学的に有意に高かった。その結果、感作は、湿疹の既往とは対照的に、アレルギー疾患の家族歴および呼吸器症状と正の相関を示した。
 さらに、呼吸器症状は魚FPIESと有意に関連していた(表2)。これらの所見は重回帰分析でも確認され、確率関数では感作の呼吸器症状への縦断的影響が明らかになった。すべての吸入抗原に対する感作症例は、非感作症例よりもはるかに早い時期に喘息を発症していた(図3a)。
 さらに、経時的に喘息症状を発症する累積ハザード比は、感作のない患者や食物のみに感作のある患者と比較して、吸入抗原への感作のある患者で有意に高かった(図3b)。
 さらに、原因食品にかかわらず、耐性獲得の時期が呼吸器症状の発現に大きく影響することが判明し、アレルギーの持続時間が長いほどリスクが高くなっていた(図3c)。

DISCUSSION>>
 われわれは、わが国の主要なアレルギーセンターからFPIES患者のヨーロッパにおける最大規模のシリーズを紹介した。長期間の追跡調査により、非典型的症例の認識、IgE感作に関連した疾患の持続または寛解、遅発性に出現するアレルギー症状を含め、信頼性の高い臨床評価が可能となった。

 FPIES患者の大部分は、被疑食物に対する食物IgEが検出されない。IgE感作のルーチンでの評価は、FPIES患者においては推奨されていないが、2-20%の患者はFPIES原因食物に感作されているとされる。
 これまでの研究では、原因食物へのIgE感作が、関連抗原に対するアレルギー症状の持続と関連するとされる一方、他の食物への感作は、耐性の獲得を遅延させないことが示されている。しかし、われわれの研究では、原因食物へのIgE感作と耐性の獲得との間に有意な相関はみられなかった

 FPIESは、病態生理学的にはIgE非依存性の疾患であるが、アレルギー疾患とアレルギーの家族歴が共存していることが多い。世界的には、診断時に合併しているアレルギー疾患としては湿疹が最も多い。湿疹の有無やアレルギー疾患の家族歴に関する評価は研究によって異なり、イスラエルやイタリアの研究に比べ、米国やオーストラリアの研究でより高い合併率であることが報告されている。
 われわれの研究では、FPIES症例におけるベースライン時の湿疹とアレルギー疾患の家族歴は、過去のより低い割合を報告しているデータと一致していた。湿疹の既往は、食物や吸入抗原に対するIgE感作とは有意な相関はなかった。したがって、われわれの患者では、IgE感作は重度の皮膚バリア障害を介して生じたものではないと考えられる

 最近の研究で、喘息やアレルギー性鼻炎を含む他のアレルギー疾患は、FPIESとの合併に直接的な因果関係はないことが強調されている。我々の研究でも同様に、アレルギー疾患の合併率は、一般集団の有病率と同じであった。
 しかし、食物に対するIgE感作を有するFPIES患者では、他の要因とは無関係に、吸入抗原に対するIgE感作を来すリスクが2倍高かった。その結果、ほとんどの症例で、就学前の時期に呼吸器症状を発症する主要因は、吸入抗原に対する感作であった。
 逆に、食物に対する感作が吸入抗原に対する感作に続発しない場合は、危険因子とはならなかった。上記の観察結果は他の報告でも述べられており、乳幼児期の食物への感作は、吸入抗原への感作、ひいてはその後の喘息症状のリスク増大の指標となることが強調されている。

 魚FPIESは、乳幼児期に吸入抗原に対する感作および喘息を発症するリスクの増加と関連していた。このことは、(今回の研究に組み込まれた)FPIES患者の大多数が魚類に起因するものであったという事実から説明できるかもしれない。
 一方、魚FPIESに対する寛容が得られたとしても、一般的に遅く、炎症性分子機構はIgEのスイッチングに向かっている。IgEによるアレルギー機序の出現は、アレルゲンに特異的ではなく、むしろ持続的なアレルギー反応によって引き起こされると考えている。このことは、耐性が遅れる、または得られないことが、問題となる食物に関係なく、アレルゲン感作およびその後の呼吸器症状を発症する危険性の増大にも関係しているという事実からも支持されうる。
 Meyerらによる最近の報告では、著者らは、非IgEおよびIgEを介する統合的なアレルギーマーチを提唱した。このモデルでは、FPIESが遅発性に寛解する時期と、鼻炎や喘息といったIgE依存性のアレルギー疾患の出現時期が一致している。
 われわれは、素因のある人の持続的な非IgEアレルギーが、TNFαの産生を増加させ、上皮バリアが破壊され、その後に吸入抗原による感作が起こり、最終的に鼻炎や喘息が発症するという納得のいくメカニズムを提案する。

 本研究では、魚類が最も一般的に報告された誘因食品であった。米国やスウェーデンのデータとは対照的に、地中海沿岸諸国では同様の結果が以前に報告されている。原因となった魚の種類に関して、5人の被験者が、原因となった魚以外の種類の魚には耐容性を示した、という今回の結果は、イタリアでの過去のデータを補強するものである。
 このような観察結果の背景にある免疫病理学的メカニズムは、いまだ不明である。おそらく、TNF-αとヒト白血球抗原DRアイソタイプ(HLA-DR)マーカーの増加に関連する、種特異的なパルブアルブミンエピトープが存在するのだろう。

 牛乳は、世界中で最も多く報告されている原因食物であるが、我々の研究では2番目に多い原因食物であった。体重増加不良が主な臨床所見であった患者はごく少数であったが、これは診断が迅速であったためであろう。このように、慢性FPIES症例では、疾患に対する認識と早期診断により、乳児期の十分な発育が確保された。
 特筆すべきは、牛乳摂取後の蕁麻疹で入院した患者が2名いたが、IgE感作が認められなかったことである。蕁麻疹は主にIgEを介する疾患であるが、時に非IgE介在性機序、すなわち肥満細胞や好塩基球の脱顆粒とそれに続くヒスタミンや他の炎症性メディエーターの放出によって発症する。
 したがって、蕁麻疹とFPIESの両方に共通する細胞介在性の機序は、蕁麻疹とFPIESが併発することを説明しうる可能性がある。

 次に頻度が高かった原因食物は鶏卵であった。卵FPIESの1例は卵黄のみが原因であった。
 卵白と卵黄では、FPIES症状を引き起こす抗原性が異なることが、これまでに数例報告されている。鶏の血清アルブミン(Gal d 5)とYGP42(Gal d 6)がIgEを介する卵黄アレルギーの主要アレルゲンであることが示唆された。しかし、FPIES症例において消化器症状を誘発する卵黄の成分は、まだ解明されていない。

 耐性獲得年齢の中央値は原因食品によって異なり、発症年齢に依存していた。
 牛乳FPIESは早期に寛解し、次いで卵であった。魚FPIESは明確に遷延し、魚FPIESの半数近くと卵FPIESの3分の1が、研究期間終了まで寛解が得られなかった。特筆すべきは、以前に報告されたように魚類FPIESは重篤な臨床症状を呈しるため、この事実が患者のOFCの実施を遅らせたり、中止してしまった可能性があることである。さらに、以前の研究では、ギリシャの子供たちの魚の消費量は比較的少なく、魚が重要な栄養食品とはあまり考えられていないことが示唆されている。
 これら2つの点から、魚FPIESの症例が追跡から漏れたり、OFCを拒否したりする症例が少なかったことが説明できるかもしれない。

 FPIES患者の中には、原因となった食品が調理されたり加工されたりした場合に、異なる反応を示した症例があったことは特筆に値する。
 3例の牛乳FPIES患者は生乳に反応したが、ヨーグルトやチーズは摂取できた。これらの患者にはIgEのアレルギープロファイルは無かったが、β-ラクトグロブリンに対するIgE感作があり、胃腸症状が主な表現型である患者においても同様の現象が報告された。これらの患者もまた、他の乳製品を含む加工品の摂取が可能であった。
 さらに、2人の卵FPIES患者は焼き卵を摂取することができた。最近報告された、少量の加熱した原因食品に対する耐性は、FPIESの反応が用量依存的であることに起因している可能性がある。また、このようなエピトープが分解されることで、FPIESの表現型によっては、よく調理された食品であれば、その食品に耐えられるようになる可能性がある。あるいは、オボアルブミンの単糖(マンノース)による糖鎖修飾は、樹状細胞レセプターの統合、MHC抗原提示、抗原特異的T細胞の活性化などに影響を与え、その結果、卵アレルギーに対するアレルギー反応を減弱させたのかもしれない。

 FPIES児における内視鏡所見と免疫学的所見に基づいて、いくつかの潜在的な機序が示唆されている。FPIESの病態生理学に関与する様々な免疫学的相互作用と臨床像を組み込むため、図4にその概略を示した。
 FPIESにおいて抗原の認識と反応の開始を最終的に担う細胞は不明であるが、FPIESを発症した児は多量にTNF-αを産生し、TGF-βは実質的に低レベルであることが認識されている。したがって、急性FPIESでは、抗原提示の過程でTNF-αを産生するTh1細胞を活性化すると考えられている。TGF-βによる制御的な役割がない場合、好中球と好酸球が蓄積・活性化して局所炎症反応が起こり、細胞毒性が増強する。TNF-αは上皮にも作用し、その透過性を高め、腸のタイトジャンクションバリアを変化させる。
 一方で、TNF-αは視床下部に直接作用して体温を上昇させ、肝臓では急性期タンパク質(C反応性タンパク質[CRP]など)の産生を促進し、全身性の炎症を引き起こす。炎症過程は、TGF-βの制御的役割がないため、さらに促進される。一部の症例では、末梢血T細胞によるIL-4とIL-5の増加とIFN-γ発現の減少を意味するTh2に偏った反応が関与している可能性がある。
 これにより、素因のある人では、B細胞が食物および/または吸入抗原に対する特異的IgEの産生へと連続的に切り替わり、最終的に古典的なIgE介在反応を引き起こす。さらに、FPIESが遷延する症例(魚や卵など)では、上記のような免疫逸脱が長期間続くため、腸粘膜の炎症が持続し、アレルゲンに対する透過性が高まり、呼吸器アレルギー症状を引き起こしやすくなる(図4)。

Limitation
 本研究で問題となった食品の品目が少ないため、地域社会で原因となっているアレルゲン全体を代表するものではない可能性がある。
 さらに、卵が原因食物であった患者は少数派であったため、IgE感作に関する長期的転帰について安全な結論を導き出すことはできない。
 さらに、あらかじめ規定された前向き評価の期間による制約があり、正確な寛解の時期を確実に判断することはできていない。
 FPIES症例は、専門家により長期間にわたり一貫して前向きに記録されたとはいえ、確固とした相関を推定するためには、より多くのIgE感作のあるFPIES症例が必要であることは間違いない。
 しかしながら、主要な結果は多くの統計的アプローチによって繰り返し確認され、我々の知見の信頼性を高めているといえる。

CONCLUSION>>
 FPIESの大半は急性症状を呈し、ギリシャ人コホートで最も一般的な原因食物は魚であった。
 食物に対するIgE感作は、皮膚バリア障害の原因ではなく、耐性にも影響しなかったが、むしろ喘息の素因となる吸入抗原に対するIgE感作と関連していた。
 さらに、耐性獲得の遅れは、呼吸器症状の素因となるTh2免疫活性化の長期化・持続にもつながる可能性がある。
 FPIESとアレルギー性疾患、IgE感作との関係を明らかにするためには、より大規模な集団研究、より長期間の追跡調査、基礎となる免疫学的メカニズムの評価が必要である。

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 *記載内容に関してはあくまでも個人の解釈、意見の範疇ですので参考程度に捉えてください。

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