"Pranlukast treatment and the use of respiratory support in infants with respiratory syncytial virus infection"
"RSウイルス感染乳児に対しプランルカスト投与することで呼吸補助を予防できる"
PLOS ONE. 2022 May 27;17(5):e0269043.
Jun Kubota, Sho Takahashi, Takayuki Suzuki, Akira Ito, Naoe Akiyama, Noriko Takahata.
以下、文献へのリンクです。図表などは下記を参照ください。
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INTRDUCTION>>
RSウイルス(RSV)感染により引き起こされる重症度は幅広く、軽症から呼吸器管理を要する重症までさまざまである。また、RSVは小児の入院の最も多い原因のひとつであり、80%以上が基礎疾患の無い児である。RSVに対する特異的な治療法は無いため、対症療法が治療の基本となり、呼吸補助を要するかどうかが治療方針を左右する重要な要素であり、医療経済学的な観点からも重要である。
ロイコトリエン受容体拮抗薬(LTRA)は、抗炎症作用や気管支収縮や気管支の過敏に対する作用があり、ウイルス感染症の治療に有用であると考えられており、また、RSV感染時にロイコトリエンが増加するとの報告もある。
ウイルス性気管支炎の治療に際し、LTRA(モンテルカスト)を使用した報告では効果は様々なようである。モンテルカストがウイルス性気管支炎の症状を改善させる報告もあれば、RSV感染による症状を改善させないとする報告もある。しかし、医療費の観点からは、LTRAが症状を改善するかどうかではなく、呼吸器補助を必要とする患者の数を減らすかどうかを考慮することが重要で、LTRAによって呼吸補助の必要性が減れば、呼吸補助の使用によって生じる患児やその家族の身体的・心理的負担も軽減される。
今回の研究では、RSV感染乳児において、LTRAが呼吸補助(HFNC、CPAP、人工呼吸管理)の必要性を低下させる効果があるかどうかを評価した。
METHOD>>
対象:
慈恵医科大葛飾医療センター(東京)、厚木市立病院(神奈川)、富士市立中央病院(静岡)の3施設での後方視研究(いずれも小児2次救急病院)。
2012年1月1日~2019年12月31日の間に、RSV感染症の治療のため3病院の小児科に入院した生後10カ月未満の乳児が対象。
(10カ月未満児のRSV感染に伴う経時的な重症度を評価するためのスコアリングシステムとして開発されたGlobal Respiratory Severity Score(GRSS)(→Utility of the Global Respiratory Severity Score for predicting the need for respiratory support in infants with respiratory syncytial virus infection | PLOS ONE)を用いたため)
RSV感染の診断には、市販の迅速抗原検査を使用した。
除外基準:在胎週数36週未満の児、入院適応が無呼吸のみの児、慢性的な誤嚥・先天性心疾患・免疫抑制状態・悪性腫瘍・神経疾患などの高リスクを有する児、パリビズマブの予防投与を受けている児、NICUへの入院歴、喘息や喘鳴の既往、入院前や入院中のステロイド治療、GRSSの算出に必要な基本情報が不足している児
呼吸補助開始基準:臨床所見(多呼吸、聴診所見)や検査所見(呼吸性アシデミア、静脈血ガス)に基づいた担当小児科医の裁量に委ねられた。
研究期間中に発症率が40%増加しているが、これは主に日本における迅速検査数の増加および迅速検査に対する保険適用の拡大によるものである。
研究デザイン:カルテを後方視的にレビュー
主要評価項目:呼吸補助の使用
副次評価項目:入院期間(社会的な要因を除く)、呼吸補助開始時点でのGRSS、最重症時点でのGRSS
入院期間中、GRSSはSpO2、呼吸数、全身状態、聴診所見(喘鳴、ラ音/ロンカイ)、チアノーゼ、活気、エア入りなどのパラメータをオンラインで入力し、日々最も悪い状態を評価して記録した。
日本での保険適用の都合上、プランルカスト(7mg/kg分2)を使用し、使用の有無で2群に分けた。プランルカスト開始と呼吸補助開始が同日であった場合は非投与群とした。病日は症状(鼻汁、咳嗽、喘鳴、発熱、活気低下)が出た日を開始日とした。
統計解析:
連続変数は中央値および四分位範囲(IQR)で表し、カテゴリー変数は度数で表した。2群間の統計的比較は、連続変数についてはMann-WhitneyのU検定、カテゴリー変数についてはカイ二乗検定またはフィッシャーの正確検定を用いて行った。P値<0.05を統計的に有意であるとみなした。欠測データは欠測として扱い、欠測値の代入は行わなかった。
傾向スコアマッチング解析を行い、治療の重み付けの逆確率を用いて平均治療効果を推定した。最近傍法を用いて、プランルカストによる治療を受けた児と受けなかった児をマッチングした。傾向スコアは、多変量ロジスティック回帰モデルを用いて計算し、ベースライン特性に応じて各患者のプランルカスト投与確率を定めた。2群間のバランスは、絶対標準化差に基づきチェックした。標準化差の絶対値が0.1未満であれば、有意であると判断された。ベースライン特性とアウトカムは、傾向スコアでマッチングされたコホートを用いて比較された。
次に、研究結果の頑健性を確認するために、治療の重み付けの逆確率を用いて平均治療効果を推定した。各群の中で、プランルカストによる治療の有無によって患児を比較した。多変量ロジスティック回帰を用いて、オッズ比(OR)と95%信頼区間(CI)を推定した。
RESULT>>
患者背景:
研究デザインのフローチャートを図1に示す。期間中に3つの病院に入院した10ヶ月未満のRSV感染乳幼児は合計814名であった。これらの乳児のうち、322人(39.6%)は基準を満たさず除外された。
残りの492人の乳児(年齢中央値[IQR]:2.8[1.6-5.4]カ月、男児:263[53.5%])のうち、198人(40.2%)がプランルカストを投与された。
(群間に年齢による有意差があり、投与群 3.8[2.4-6.5]カ月 vs 非投与群 2.2[1.3-4.0カ月]。ただし傾向スコアマッチング後にはこの有意差は無くなる。)
プランルカストの投与開始時期は、入院時78.8%(156/198人)、入院前12.1%(24/198人)、入院後9.1%(18/198人)であった。
性別、年齢、在胎週数、入院時の病日、入院時のGRSS、酸素投与・抗菌薬の使用・気管支拡張剤の吸入の有無、および施設に基づいて傾向スコアを算出した。
プランルカストを投与した児としなかった児の傾向スコアの分布は、両群間で重っていた(図2)。傾向スコアマッチングの結果、147名の患者が各群に割り当てられた。マッチングに含まれるすべての変数の絶対標準差が0.1未満であったため、バランスは満足のいくものであった(図3)。傾向スコアマッチング前後の各群のベースライン特性を表1に示す。
呼吸補助開始時もしくは最重症時点のGRSSは、呼吸補助を受けた群が受けなかった群より有意に高かった(表2、表3)。しかし、呼吸補助の有無にかかわらず、プランルカストによる治療の有無によってGRSSに有意な差は認められなかった。これらの結果は、傾向スコアマッチングにかかわらず一貫していた。有害事象はなかった。
主要評価項目:
傾向スコアマッチング後、プランルカスト投与群で呼吸補助を要した割合は、プランルカスト非投与群よりも有意に低かった(それぞれ3.4%[5/147] vs 11.6%[17/147];P = 0.01)(表1)。
プランルカストは、呼吸補助の実施率の低さと関連していた(OR:0.27、95%CI:0.08-0.79、P=0.01)(表4)。平均的な治療効果に対して治療の重み付けの逆確率を用いてデータを解析した場合も同様の結果であった(OR: 0.22, 95% CI: 0.07-0.63; P = 0.01)(表4)。その際も含まれるすべての変数の標準差は<0.1であり、バランスが取れていることが示された(図4)。
副次評価項目:
傾向スコアマッチング後、入院期間、呼吸補助開始時点でのGRSS、最重症時点でのGRSSには、群間で有意差はなかった(それぞれ4日、P = 0.73、2.804と2.869、P = 0.96)(表1)。
DISCUSSION>>
プランルカストは、RSV感染児における呼吸補助の使用率を低下させた。我々の知る限り、本研究は、RSV感染児におけるLTRAと呼吸補助の必要性との関連を評価した最初の研究である。重症RSV感染児が呼吸補助を必要とするメカニズムは、RSVが広範な炎症(好中球浸潤と炎症性サイトカインの増加による)を誘発するため、気道粘液の増加と破壊された細胞の残骸の沈着による気管支の閉塞を伴うことである。
特に5カ月未満の児は、12カ月以上の児よりも入院を必要とする可能性が高く、年齢とともに気管支の内腔が広がることと関係しているのかもしれない。プランルカストは、好中球や炎症性サイトカインを直接的に抑制し、樹状細胞やT細胞を介して間接的に抑制することにより、気道閉塞を軽減させると考えられる。
入院期間については、本研究や先行研究において、プランルカスト投与によって短縮されることはなかった。しかし、傾向スコアでマッチングした児を呼吸補助の有無によって2群に分けた場合、呼吸補助を受けた児の入院期間は、呼吸補助を受けなかった児よりも有意に長かった(中央値[IQR];8日[5-9日] vs 4日[3-6日];P<0.01)。本研究では、サンプル数が少なく、プランルカスト投与と入院期間の関連性を欠く一因となった可能性がある。
本研究や先行研究では、RSV感染児において、プランルカスト投与は重症度スコアの改善とは関連しなかった。
先行研究の限界は、研究ごとに異なるスコアリングシステムを用いており、RSV感染に特化したスコアリングシステムを用いていないことである。今回我々はGRSSを使用することで、RSV感染の経過を通して重症度をスコア化することができた。さらに、RSV感染児に対する呼吸補助開始に関する判断のための有用な指針も提供している(筆者らの既報)。
プランルカスト投与とGRSSの間に関連性がなかった理由としては、サンプル数が少なかったこと、後方視研究でGRSSは日ごとに最も悪い状態を評価したこと、GRSSのパラメータごとの重症度は考慮されていなかったことなどが考えられる。
Limitation:
① 二重盲検無作為化比較試験ではなく、後方視的な研究であることである。交絡をコントロールするため、傾向スコアマッチングと治療の逆確率の重み付けを用いたが、評価されていない共変量(タバコの煙への曝露やアトピーの家族歴など)による交絡の可能性がある。
また、二重盲検化されていないため、呼吸補助の開始に関する情報バイアスが存在する可能性がある。
しかし、呼吸補助群は実施しなかった群に比べ、GRSSが有意に高く、小児科医はより重度の呼吸障害の児に対して呼吸補助を開始していた。また、呼吸補助を受けた児のうち、投与の有無でGRSSに差がないことから、より重症な児にプランルカストを投与していたわけでもなかった。
② 日本ではプランルカストの乳児への使用が健康保険で承認されているため今回使用した。先行研究では、モンテルカストの有効性が評価されているが、いずれもでシステイニルロイコトリエン受容体を遮断する同じ薬理作用であり、本研究の結果は、他のLTRAにも一般化できる可能性が高い。
③ 本研究はRSV感染による状態増悪のリスクが高くない生後10ヶ月未満の乳児を対象としていたことだがRSV感染症で入院した乳児の80%以上は基礎疾患を有しておらず、本研究で使用した適合基準および除外基準は、大きな制限とはならない。
④ 患児が他のウイルスに混合感染しているかどうかは検証していない。
これらの限界を解決するため、多施設共同二重盲検無作為化比較試験を実施し、呼吸補助の必要性に対するプランルカストの効果を確認する必要がある。
CONCLUSION>>
プランルカストの使用は、RSV感染児における呼吸補助の必要性を低下させる可能性がある。RSV感染には特異的な治療法が無いことから、プランルカストはRSV感染児に対する有効な一次治療となる可能性がある。RSV感染児におけるプランルカスト投与の有益性を確認するためには、前向き研究が必要である。
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以下、所感です。
SARS-Cov-2のパンデミックの影響もあり、幸か不幸かここ3年はRSVも勢いを弱め、数年前のように(P)ICUにRSV細気管支炎で呼吸補助されている乳児が並ぶ状況が、年に何度も繰り返される状態ではなくなっている印象です。かつてのように周期的・全国的なRSVの大流行はなく、各地で小規模な流行に留まるのみのようです。しかし、それでも0になるわけでもなく、やはり小規模ながらにもSARS-Cov-2対策の感染予防の網をすり抜け流行はあったわけで、今後も特に低月齢の乳児の感染時には重症化のリスクに注意しながら管理が必要となります。
パリピズマブやニルセビマブなど、予防に関する研究開発は進んでいますが、特効薬の開発には至っていない現状で、変わらず対症療法が治療の中心となります。論文にも記載の通り、呼吸補助を要するかどうかが治療の大きなポイントで、小児科医としてはいかに負担を少なくして赤ちゃんたちに急性期を乗り越えてもらえるかどうかが治療のキーだと思います。
これまで、ロイコトリエン拮抗薬(LTRA)はウイルス性喘鳴に対してなんとなく(特に根拠なく)出されることが多かった印象ですが、個人的には「小児気管支喘息治療・管理ガイドライン2020」CQ12にある通り、乳幼児のウイルス性喘鳴に漫然とLTRAの投与はしないようにしています。
ただ、ここ数年でウイルス性気管支炎に対するLTRAの有効性を示す報告、効果は無いとする報告それぞれ増えつつある状況ですが、"年齢や対象を限定すれば"、有効な児がいることはある程度間違いないのかなと考えています。
今回の報告はRSV感染にfocusを絞った際にLTRA(プランルカスト)が有効かどうか、という後方視研究です。結論としては、生後10か月未満の児に対し、急性期にLTRAを使用することで呼吸補助の使用率を下げることができると思われる、というものでした。
つまり、RSV感染の急性期にLTRA投与により呼吸状態の増悪を避けられる可能性がある、ということになるかと思います。上述のように、赤ちゃんたちになるべく負担の少ないように急性期を乗り越えてもらうように治療を行う上で、すごく意味のある報告だと思います。
後方視研究でありLimitationも多いですが、傾向スコアマッチングという手法に関しても勉強になりました。(まだまだ理解が十分ではありませんが。)
LTRAの投与に際してあまり副作用などを深く考慮する必要がないことも大きいですね。前向き研究も早々の報告が期待できるのではないでしょうか。
もはや流行時期の推測など不可能に近いような感染パターンをとるRSVですが、特に今年以降はまたかつてのように猛威を振るう可能性もあります。呼吸補助を回避する目的で、RSV乳児へのLTRA投与は積極的に考えて良いのかもしれません。
*記載内容に関してはあくまでも個人の解釈、意見の範疇ですので参考程度に捉えてください。
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