【RCT】喘息の急性増悪に対する内服ステロイド:DEX vs PSLの検討

"Comparative effectiveness of oral dexamethasone vs. oral prednisolone for acute exacerbation of asthma: A randomized control trial"
"喘息の急性増悪に対するデキサメタゾン内服とプレドニゾロン内服の比較有効性"
J Family Med Prim Care. 2022 Apr; 11(4): 1395–1400.
Bhaskar Banoth, Anjali Verma, Kapil Bhalla, et al.
以下、文献へのリンクです
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■この論文を端的に言うと

・喘息の急性増悪に対する、デキサメタゾン(DEX)とプレドニゾロン(PSL)の有効性と安全性に関するこれまでの研究結果はまちまちであった。

インドの中規模都市での、喘息急性増悪の軽症~中等症を対象としたRCTを実施した。

DEX群(0.3mg/kg、24時間ごとに計2回)PSL群(1mg/kg、12時間ごとに1日2回、計5日間内服)との比較試験。

・DEXは、嘔吐・胃炎などの副作用を最小限に抑えながら、救急外来滞在時間や入院率を有意に減少させ、より早期に症状の改善させる傾向がある点でPSLよりも優れていた。

・最適なDEXの投与方法に関してはさらなるRCTが必要である。

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■所感
 スギ・ヒノキ花粉の季節がひと段落してきましたが、やはり季節の変わり目には喘息急性増悪(発作)が増えますね。
 今年はCovid-19の影響が少し落ち着いたこともあって、感染症契機の急性増悪もここ2-3年と比較すると増えているように感じるのは私だけでは無いはずです。

 ステロイドの全身投与を要する症例に対し、内服での投与に関しては、日本の小児気管支喘息治療・管理ガイドライン(2020)では、「DEX 0.05-0.1mg/kg/日、分1~2"もしくは"PSL 1~2mg/kg/日、分1~3」と記載され、期間に関してはいずれも3~5日間を目安(外来での使用は月に3日間程度まで)、とされています。
 また、CQ11には「急性増悪(発作)による入院、再入院、受診を要する再燃・有害事象に関して、プレドニゾロンとデキサメタゾンとで、種類・用量・投与期間に関して違いは認められず、推奨される特定の使用法はない」とする趣旨の内容が記載されています。

 上記ガイドライン作成後にも、世界的に気管支喘息急性増悪に対するDEX vs PSLを比較検討した試験がいくつか発表されています。
 今回選んだ論文は、直近のものでDEXがPSLに対し、非劣性ではなく優位性を示した報告を取り上げてみました。インドでの報告であり、長期管理や医療制度など、日本とは少し違いがあるかもしれませんが、メインのアウトカムに関しては日本においても十分参考になるかと思います。

 日本のガイドラインでの投与量と比べるとDEXは少し多めにはなりますが、PSLに関してはほぼ同等です。
 しかし、本論文のプロトコールをステロイド量として力価で比較すると、DEX群の方がPSL群に比して3/8とかなり使用量は抑えられています。
 PSLに関しては味の問題やDEXと比して長い投与期間は、アドヒアランスに有意差は無いとする報告もあるようですが、やはり"飲みにくい"という症例を目の前に抱えると、どうしたものかと頭を悩ませることも多いですよね。
 PSL半減期12~36時間に対し、DEX半減期36~54時間ということも踏まえると、投与方法に関しては妥当に感じました。

 これまで個人的には喘息急性増悪に対してステロイド内服を使用する際はPSLを使用することが多かったですが、ガイドライン的にもどちらの選択肢も併記されている状況ですし、他文献のアドヒアランスや有効性などのデータも加味し、DEXに切り替えていこうかなと思っていたところでした。

 本論文を読むにあたって、他の報告の投与方法なども目を通してみましたが、特にDEXは.015~0.6mg/kg/日と、投与量にかなり幅があり統一されていない点が気になります。
 これはクループ症候群など他の急性期疾患でも同様ですが、クループ症候群に関しては0.15mg/kg/doseと0.6mg/kg/doseの比較試験で、少量でも非劣性が示されていたはずです。
 特に喘息は何度もステロイド全身投与を要する症例(もちろんあまり好ましい状況ではないですが)もありますし、喘息においてもより少量で有効である、と言えるようなエビデンスが出てくるといいですね。

 ここ数十年で喘息管理が劇的に良化している状況とはいえ、やはり侮れない喘息急性増悪、内服管理であっても入院加療を含めた安全な治療を心がけたいものです。

 興味のある方はぜひ下記全文や、引用元論文も参照してみてください。

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■論文本文
INTRDUCTION>>
 喘息は小児の一般的な疾患で、子どもたちの活動を著しく制限する。 急性増悪は致命的となることもあり、また繰り返すと肺機能予後にも悪影響を与え、QoLの低下や子どもの心理的な健康への影響ももたらす。

 The Royal College of Paediatrics and Child Health(RCPCH)は、喘息急性増悪の際に受診が遅くなりがちであるため、来院後1時間以内に積極的に管理するよう勧告している。喘息管理に関する英国のガイドラインは、喘息急性増悪の児に対して早期にPSLの内服を開始するよう推奨している。

 しかし、PSLによる治療にもかかわらず、約5-25%の患者は再発し、多くがその後の再増悪の管理のために入院を必要としている。これは、治療期間が長いこと、薬剤の苦味が強いこと、嘔吐などの副作用コンプライアンスが低いことに起因している。
 喘息管理におけるプライマリケア医の役割は、症状の頻度を減らすようコントロールし、将来的な罹病率を減らすことであり、プライマリケア医は最新の試験や研究に精通していなければならない。

 DEXは、小児の喘息急性増悪に対するPSLと同等の治療法として提案されている。DEXは半減期が長く、クループなど他の小児の急性疾患でも安全に使用されている。
 DEXは単回筋注投与や1日2回、1-2日間内服投与などの用量で用いられ、作用時間が長く治療に要する期間が短いことから、PSLの代替薬として魅力的であり、コンプライアンスの向上と臨床成績の改善につながるとされる。

 これまでのDEXとPSLの有効性と安全性に関する直接比較試験はまばらで、結果もまちまちである。そこで、本研究は喘息の急性増悪におけるDEX内服とPSL内服の有効性を比較することを目的とした。

METHOD>>
デザイン:単施設での無作為化対象試験パイロットスタディ
施設:インドの半都市~農村部であるハリヤーナー州ロータクにある3次医療センター(PGIMS、医学部附属病院)の小児科

P:軽症から中等症の喘息急性増悪と診断された2-14歳の小児、小児科外来・救急外来・小児科病棟の患者から抽出
I:A群 DEX(0.3mg/kg/日)を分1、2日間内服
C:B群 PSL(1mg/kg/日)を分2、5日間内服
O主要評価項目;入院加療の必要性(救急外来に6時間以上滞在した場合にも入院が必要であると判断)
 副次評価項目;救急外来での滞在時間、呼吸数、呼吸補助筋の使用、聴診所見、ピーク呼気流量(PEFR)、振戦や嘔吐/胃炎などの副作用

除外基準:DEXを2回投与しても臨床症状が悪化・改善しなかった児、いずれのグループでも中等度から重度へ増悪した児、保護者が研究参加への同意を拒否した子どもは除外された。

 十分な病歴聴取の後、各参加者は詳細に検査を受け、その後2群に無作為化された。
 症状の改善は、Pediatric Respiratory Assessment Measure(PRAM)スコアを用いて記録された。

 先行研究の有病率データに基づいて算出した必要なサンプルサイズは166であったが、誤差を少なくし、多少の減少を加味し、サンプルサイズは175名とし、A群88人、B群87人の患者が登録された。患者は、コンピューターによるブロックランダム化を用いて、2群に無作為に割り付けられた。

 患者の評価は、診察時(0時間目)、介入後4時間後、介入後5日目に行われた。両群とも、5日目にPRAMスコアによる評価を行うため、各患者に電話連絡を行った。

 研究に際して、保護者からインフォームドコンセントを得た。また、施設内の倫理委員会から倫理的な許可を得た。


統計解析
 データはMS EXCELのスプレッドシートに入力し、Statistical Package for Social Sciences (SPSS) version 21.0を使用して分析を行った。量的変数は、マン・ホイットニー検定を用いて、2群間で比較した。質的変数は、カイ二乗検定/フィッシャーの正確性検定を使用して比較した。P値<0.05を統計的に有意とみなした。

RESULT>>
 表1:年齢、性別、社会経済的地位、家族歴などのベースラインの人口統計学的特性や、併存疾患、室内汚染、吸入器(MDI)使用歴、ベースライン時のPRAMスコアなどいずれも群間で同等。

 表2:DEX群では、PSL群に比べ、6時間の救急外来滞在率が有意に少なく(5.7% vs. 35.6%, P < .0001)、入院率も低く(2.2% vs. 10.3%, P = 0.032)、5日目のPRAMスコアで有意に良好な改善を示した(0.08 ± 0.43 vs. 0.21 ± 0.63, P = 0.046)。
 PRAMスコアの改善とともに、PEFRも継続的に改善し、4時間後から5日目終了までの時間経過とともに呼吸数および呼吸補助筋の使用が減少した。

 両薬剤の副作用プロファイル比較では、DEXはPSLと比較して嘔吐・胃炎の発生が少なかった(17.1% vs. 73.6%, P < 0.001)。

 以上のことから、DEXは、嘔吐・胃炎などの副作用を最小限に抑えながら、喘息急性増悪を起こした児の救急外来滞在時間や入院率を有意に減少させた

DISCUSSION>>
 本研究では、軽度から中等度の重症度を示す喘息急性増悪と診断された2~14歳の小児175名を対象とした無作為化試験で、喘息急性増悪の治療に際しDEX内服の有効性をPSL内服と比較検討した。

 無作為化により、2つの研究グループのベースライン特性は男女差、自宅室内の環境因子、経済的背景、家族歴、MDIの使用率などが重要であると考えられるが、いずれも同等であり、転帰の違いが純粋に介入によるものであることが確認された。

 DEX群では、PSL群に比べ、急性症状のコントロールが良好で、6時間の救急外来滞在率や入院率が有意に少ないことが確認された。これは、PSLよりもDEXの方が短時間で効果的に作用したためと考えられる。
 過去の報告では、
 "DEX群はPSL群より有意に在院日数が短かったが、入院率に差はなかった"
 "救急外来での滞在時間はDEX群とPSL群の間で統計的に有意差があったが、臨床的には意味がない可能性がある"
 "フォローアップを7日目と15日目に行ったが、救急外来滞在時間は両群で同程度であった"
 とする報告などがある。

 他の研究と比較すると、救急外来での滞在時間と入院率に関する本研究の知見は臨床的に重要であり、救急外来における生命の危機とならない重症度の喘息急性増悪の管理において、DEXがPSLの代替となる重要な選択肢であることの、強い証拠を提供するものである。
 しかし、入院適応基準、医学的判断、医療施設へのアクセス性、治療プロトコルなど、入院に影響を与える多くの要因があり、それが異なる研究間のばらつきを引き起こした可能性がある。

 本研究では、ベースライン時にPRAMスコアが軽症から中等症の喘息急性増悪であった患者を対象とし、DEX群、PSL群いずれでも発症5日目までに改善していた。
 DEXとPSLの使用により、PEFR、呼吸困難感、呼吸補助筋の使用は5日目まで継続的に改善したが、DEXの方がより改善効果が高かった
 過去の報告では、
 "PSL群と比較してDEX群ではPRAMスコアに有意差はなかった(1.45 ± 1.10 vs. 1.35 ± 1.14, P = 0.947 )"
 "DEX単回筋注またはPSL5日間内服のを受けた小児を含む研究を実施し、平均喘息スコアに有意差は無かった"
 "DEXの単回内服とPSL5日間内服を比較し、5日目の時点で、患者の自己評価による普段の状態への回復度合いには差がなかった(統計的有意差はつかず)"
 "DEX単回投与とPSL3日投与を比較し、4日目の平均PRAMスコアで評価すると、DEX単回投与はPSL3日投与に対して非劣性である"
 といった報告がある。

 両薬剤の副作用を比較したところ、DEXはPSLと比較して嘔吐・胃炎の発生が少なかった。
 本研究と同様、"急性増悪の18歳未満の小児を対象としたメタアナリシスにおいて、DEXの内服/筋注投与はPSLの5日間投与と比較して救急外来や自宅での嘔吐のエピソードを減少させた"という報告があるが、DEXとPSLを比較した他のいくつかの研究では、嘔吐が主な副作用であったが、統計的にはほとんどの研究で両群間に差は示されなかった。
 嘔吐のエピソードが少ないのは、DEXがPSLに比べて口当たりが良いとされていることが理由と考えられる。

 まとめると、DEXはPSLと比較して、作用が早く、副作用が少ないため、信頼性が高く、より良い選択肢であると思われる。
 小児の喘息増悪の治療では、従来PSLの内服がステロイドとして使用されていたが、本研究は、DEX内服の有効性をPSLと比較することで明らかにした。

 喘息の急性増悪を起こした多くの小児はプライマリーヘルスケアで治療を受けており、プライマリーケア医は急性増悪を診断し管理する上で非常に重要な立場にある。
 急性増悪に対するステロイド管理にはプライマリーケア医ごとに差異があることが判明しており、したがって、こうした研究は統一した治療ガイドラインを策定する上で役立つ。
 さらに、 インドでは、小児喘息の急性増悪に対するDEXとPSLの有効性を評価した研究はほとんどないので、本研究は、救急外来における小児喘息の管理において、どの薬剤がより良い選択肢であるかを明らかにするための、さらなる大規模研究のためのステップとして機能することができる。

 本研究の長所は、妥当な数の症例が研究されたことで、そのため、救急外来で遭遇する様々な年齢層や性別の小児喘息の急性増悪に対するDEXとPSLの有効性を公平に判断ができる点である。

Limitation
 再入院や治療へのアドヒアランスなど、いくつかのパラメータが評価されていないことである。これらのパラメータは、小児喘息におけるDEXとPSLの有効性を比較する上でも重要である。
 また、他の研究では15日目までフォローアップしているものもあり、5日目までのフォローアップは短かったかもしれない


CONCLUSION>>
 特にプライマリケア医が救急で治療する軽症から中等症の喘息急性増悪の児において、DEXの24時間間隔での2回投与は、PSLの5日間投与よりも有効で安全性が高い。
 DEXは、嘔吐・胃炎などの副作用を最小限に抑えながら、急性増悪を起こした小児の救急での滞在時間や入院率を有意に減少させる
 喘息の急性期治療を必要とする小児という異質な集団におけるベースラインの差異を考慮すると、最適なDEXの投与方法を決定し、より強い根拠を得るために、更にランダム化比較試験を実施する必要がある。
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 *記載内容に関してはあくまでも個人の解釈、意見の範疇ですので参考程度に捉えてください。

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