"Early introduction of very small amounts of multiple foods to infants: A randomized trial"
経過中に皮膚の状態はPOEMスコアを用いて評価。保護者は摂取状況や症状に関して日誌への記録を行った。初回・増量時には30分間経過観察し、その後は自宅で摂取した。
"乳児への微量の多品目食材の早期導入について:ランダム化試験"
Allergology International. 2022, Jul;71(3):345-353.
Tatsuo Nishimura, Mitsuru Fukazawa, Keisuke Fukuoka, et al.
以下、文献へのリンクです。
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INTRDUCTION
乳児期早期にアレルゲン食品を与えることで、食物アレルギー(FA)を予防できることが報告されている。いくつかの無作為化比較試験(RCT)により、卵、牛乳、ピーナッツなどの個々のアレルゲン食品の早期導入が予防的な役割を果たす可能性が示唆されている。(参照:Randomized Trial of Peanut Consumption in Infants at Risk for Peanut Allergy | NEJM, Two-step egg introduction for prevention of egg allergy in high-risk infants with eczema (PETIT): a randomised, double-blind, placebo-controlled trial - The Lancet)
しかし、一部のRCTでは、むしろ特定の乳児が早期に食品に感作されることでアレルギーを発症する可能性が示唆されている。(参照:Enquiring About Tolerance (EAT) study: Feasibility of an early allergenic food introduction regimen - PMC (nih.gov))子どもは多くの食品にアレルギーを持つ可能性があるため、複数の食品に対するアレルギーを予防する、安全な方法の確立が期待される。
乳児期におけるアレルギー反応の誘発を回避し、容易に複数の食品を投与する方法が必要である。本研究では乳児でも摂取しやすいよう6種類(卵、乳、小麦、大豆、そば、ピーナッツ)のアレルギー食品をごく少量ずつ配合したミックスパウダー(MP)を使用し、漸増投与によるFAの予防効果を評価するために行った。
METHOD
Design;多施設共同、無作為化、二重盲検化、プラセボ対照試験
施設;日本国内の14の開業医において実施
期間;2017年7月1日~2019年9月30日まで
PICO:
・パウダーについて MPには6種類のアレルゲン食品を含有させ、含有量を変えた3種類の製剤を用意。MPとPPは若干色が異なるため、不透明な黒いビニール袋に入れて各クリニックに配布した。
・プロトコール
・無作為化
同程度の月齢の乳児のFA発症率は20%と推定され、MP投与により発症率が13%減少すると予測された。1群あたり92例が必要であると推定され、10%程度の追跡不能を考慮して、200例の集積を目標とした。登録時に被検者の両親から書面によるインフォームドコンセントを得た。MP群とPP群に1:1の割合で無作為に割り付けられ、MP/PPは割り当て番号を記載した不透明な黒いビニール袋に入れられ各参加医院に送られた。期間中は主治医・被験者の両親には割り当て情報を知らせず、すべての試験終了後に割り当てを開示した。
・解析
intention-to-treat解析とper-protocol解析を行い、per-protocol解析では、MP/PPを予定量の80%以上摂取した参加者を含めた。
群間比較は、カテゴリー変数についてはFisherの正確検定、連続変数についてはMann-Whitney U検定を用いて行った。
RESULT
Fig.2
除外例を除き、163例が試験参加に同意した。参加者は2群(MP群:n=83、PP群:n=80)に無作為に割り付けられた。161例(98.8%)が12週間の介入を完遂した。142例(87.1%)が生後11-13ヶ月に予定されていた血液検査を受けた。脱落2例を除き、生後18か月時に、負荷食品によるFAエピソードの有無を問診(155例)または電話(6例)で確認した。
Table2. baseline characteristics
出生歴、アレルギーの家族歴、POEMスコア、血液検査(IgE、TARC、sIgE他)など、背景因子に両群間に有意差は無かった。
Table3. FA症状
全体では、MP群7名9エピソード、PP群19名24エピソードであった。
部分的な蕁麻疹・発赤が22件、より広範囲の蕁麻疹・発赤が7件、嘔吐が6件、咳・くしゃみなどの呼吸器症状が5件。異なる食品で最大2回のFA症状を呈した例があるが、同じ食品により症状を繰り返した例はなかった。
3品目以上の食物でFA症状を呈した参加者はいなかった。
Fig.3 FA有病率
ITT解析で、MP群83例中7例(8.4%) vs PP群80例中19例(23.8%)が、FA症状を有した (RR=0.301 [95%CI: 0.116-0.784]、 P=0.0066)。
原因食品:
MP群 → 卵白5例、牛乳2例、ピーナッツと大豆各1例
PP群 → 卵白13例、牛乳6例、小麦3例、ピーナッツ2例
牛乳アレルギーを発症した児はすべて完全母乳育児であった。
入院を要する重篤な症状を呈した症例は無かった。
感作例ではMP群のFA発症率がPP群より有意に低かった (RR=0.294 [95%CI:0.116-0.745]; P=0.0046)。
一方、非感作例ではFAの発生率に各群間で有意差はなかった。
Table4
離乳食完了時の状態としては、卵白特異的IgE値を除き、両群間に差はなかった。
Fig.5/S-Fig.4 6品目の特異的 IgE 値のベースラインからの変化
11-13 ヶ月の感作率は、MP群、PP群ともに6種類の食品すべてでベースラインより有意に上昇した。卵白特異的IgE値の中央値はMP群がPP群より有意に低かったが、他の食品の特異的IgE値に有意差はなかった。
S-Table2. 安全性評価
MP群はPP群に比べ、MP-1/PP-1初回投与時の副作用発現率が有意に高かった(10/83 [12%] vs 3/80 [3.75%]、 P=0.046)。
クリニックでの観察中の顔や体の発赤・膨疹のみで、自宅でも同様の症状が数回認められたが、繰り返し服用するうちに消失した。
粉末を変えた後にも同様の反応があったが、強い症状は観察されなかった。
アレルギー反応による試験の中断はなかった。
介入期間中の被験者の医療機関受診回数はMP群とPP群で差はなかった。
18ヶ月までの研究期間中に、PP群3名、MP群3名で感染症などにより入院を要した。
DISCUSSION
本研究では、生後3~4カ月から12週間にわたり多品目のアレルギー食材をごく少量で開始することで、ADを有するアレルギーハイリスク児のFA発症を安全に抑制できることを示した。多品目のアレルギー予防には、安全・簡便・効果的な方法が求められており、今回の結果は、そのような予防法の開発につながることが期待される。
安全性に関して、過去に生卵粉末を用いたいくつかのRCTで、強いアレルギー反応により介入が中止となっている。そのリスクを回避するため、ごく少量から介入を開始することで、重篤な合併症を回避できた。
EAT studyでは、ITT解析では、FAの発症に有意差は認められなかったが、PPT解析で、6種類のアレルゲン食品を早期に摂取した群では、標準群に比べ、FA発症率が有意に低いことが示されていた。しかし、介入方法が親にとって非常に負担の大きく、介入群のうちプロトコルを遵守できたのが30%に過ぎなかったためことがITT解析で有意差が得られなかった原因と考えられる。
本研究では、98%の参加者が最後まで介入を継続することができた。これは、袋に入った粉末を毎日与えるだけ、という簡便さによると思われる。我々のFA予防法の最大の利点は、コンプライアンスの高さであった。
PETIT studyでは、生後6-9か月まで加熱卵粉末50mg (卵タンパク 25mg)を毎日摂取し、その後12か月まで1日250mg摂取しており、総介入期間は6ヶ月であった。
EAT studyでは、生後5か月~1歳まで、各アレルゲンタンパクを週に4gずつ摂取する必要があった。
LAEP studyでは、生後60か月まで、週6g以上のピーナッツタンパクを与えることが介入条件とされ、期間は50か月であった。
本研究では、卵タンパクは2.2-17.6mg、牛乳は0.3-2.4mg、ピーナッツは0.6-4.8mgで12週間の投与とした。このように、本研究では、先行研究よりもさらに低用量で短期間の介入も有効であることが示された。感作のある群において、MPの効果がより顕著であった。
=Limitation=
当初計画したサンプルサイズを満たせず、本研究は検出力不足であった。そのため、有意差のなかった食品についてMPが無効であるかどうかについて、決定的な結論を得ることができない。
鶏卵以外の5種類のFAの発症頻度が低く、本研究においてFAエピソード自体が少なく、介入の効果を判断することはできなかった。
6種類の食品全てに関してOFCを実施することは困難であり、FAの診断は主治医の判断に委ねられており、バイアスが存在する可能性がある。
少量の個別食品導入の有効性の再検討とともに、より多くの被験者での更なる研究が必要である。
CONCLUSION
乳児期早期に12週間にわたり複数の食品の摂取量をごく少量ずつ漸増させることにより、鶏卵アレルギーの発症および卵白特異的IgEの上昇(感作)を安全に抑制することが可能である。
他の食品でもアレルギーを抑制する可能性があるが、特異的IgEに差はなく、決定的な 結論には至らなかった。
この予防法は、特に早期に食物感作を有する児に有効であると考えられる。
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以下、所感です。
本論文では、最終的に有意差がつき発症予防効果が示された食品は鶏卵だけで、これはPETIT studyなどの既報と概ね変わりがない結果でした。
しかし、有意差は無いものの特異的IgE値が低下する傾向にはあるようで、もう少しn数が多ければ有意差がつく可能性はありそうです。過去の大規模研究と比較し、脱落率がかなり低いこと、多品目の食材の負荷でありながら副作用が非常に少なく安全に使用できること、は本論文における強みでしょう。また、開業医の先生たちが各自施設でこれほどの規模のRCTを実施しているという点で、非常に素晴らしい研究だと思いました。
近年ではSpoonful One(Nestle)などがアレルギー対策粉末を謳う商業用食品として販売されています。しかし、16品目と多数のアレルゲンとなり得る食品が含有されており、日本においてあまり1歳未満でのナッツ類や甲殻類の摂取はなじみがない、摂取後にFA症状を呈した場合原因食品が不明で全て除去、と不必要な除去を要する結果となりかねないため、使用には慎重を期する必要があると思われます。ある程度対象を絞って、安全第一で実施できれば非常に有益なアレルギー予防になりうる可能性はあると思いますが。。
*記載内容に関してはあくまでも個人の解釈、意見の範疇ですので参考程度に捉えてください。
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