【RCT】本邦でのFPIES児の現状

"Remission of Acute Food Protein-Induced Enterocolitis Syndrome Confirmed by Oral Food Challenges in Japan"

"本邦での急性食物蛋白誘発胃腸炎症候群(acute FPIES)児の食物経口負荷試験で確認された寛解に関する検討"

Nutrients. 2022 Oct 7;14(19):4158.

Koji Nishimura, Kiwako Yamamoto-Hanada, Miori Sato, et al.

以下、文献へのリンクです。

Remission of Acute Food Protein-Induced Enterocolitis Syndrome Confirmed by Oral Food Challenges in Japan - PubMed (nih.gov)
Remission of Acute Food Protein-Induced Enterocolitis Syndrome Confirmed by Oral Food Challenges in Japan - PMC (nih.gov)

INTRDUCTION

新生児乳児食物蛋白誘発胃腸炎症候群(FPIES)に特異的な検査項目は無く、臨床診断が中心である。典型的な症状や徴候を伴う同じ食物に対する反応の反復、被疑食品除去による改善、他の原因の除外など、徹底した病歴聴取が必要である。

食物経口負荷試験(OFC)はFPIESの診断に最も適しているが、OFCによる反応は重篤となることがあり、15%が低血圧とショックを呈し、45-95%が輸液、ステロイド、またはその両方の治療を必要とする。FPIESに対するOFCプロトコルは、International consensus guideline (GL)で確立されているが、臨床現場での標準化、十分な検討はなされていない。既にacute FPIESと診断されている患者において、寛解を評価する際のOFCの実施時期やその成績は不明である。

本研究では、日本のacute FPIES児を対象に、寛解評価のためのOFCについて検討することとした。


METHOD

デザイン;単施設(国立成育医療センター:HCCHDアレルギーセンター)における後方視的コホート研究

期間; 2014年1月~2019年12月まで

対象;期間にFPIESの寛解確認目的のOFCを施行した23例

評価項目;患者の年齢、性別、症状、発症年齢、診断時年齢、原因食品、アレルギー歴、周産期歴、アレルギー家族歴、検査結果、皮膚テスト結果、OFCに関連する情報

 OFCのデータには、年齢、食品の摂取量、結果、症状のタイミング、治療の有無が含まれた。すべての変数は、NCCHDの電子カルテから得た。

検査:OFCのルート確保時に血液検査(白血球、好中球、好酸球、CRP、TRAC、総IgE値、抗原特異的IgE値(Immuno-CAP))を実施。SPT(皮膚プリックテスト)を合わせて行った。

OFCの方法:非盲検でのOFCを5泊6日の入院の上実施。症状が無ければ1日ごとに増量。総負荷量は重症度と年齢に基づき設定。全例ルート確保。IgE感作のある児では40分おきに3回に分割して投与。診断基準はGLに準拠。中等度または重度の反応では、主治医の判断で、生理食塩水輸液、ステロイドの静脈内投与、またはその両方の処置が行われた。4日目のOFCが陰性であることをacute FPIESの寛解と定義した。

統計解析:すべての統計解析は、統計ソフト EZR (埼玉医療センター/自治医科大学、日本)を用いて実施した。人口統計学的データと臨床データは中央値(四分位範囲[IQR])として報告し、パラメトリックなデータは平均値SDとして報告した。統計解析は、OFC陽性とOFC陰性の背景と臨床歴の違いを調べるために、Fisherの正確検定、Mann-Whitney検定、Studentのt検定を用いて行われた。p値が0.05より小さい場合、統計的に有意とした。


RESULT
Fig1. 
 期間中82件のOFCを実施。単回のエピソードのみであった33例を除外。即時型反応を呈した例やchronic FPIESなど他のnon-IgE-GIFAsの病型を除外。最終的に23件がエントリーされ、OFC陽性が8例、陰性が15例であった。
Fig2. 
 acute FPIESの寛解確認のためのOFCの数は年々増加している。
Table2. 
 初発症状および診断時の年齢中央値はそれぞれ7.0[6.25-8.0]カ月および8.0[6.25-11.5]カ月。FPIESと診断されるまでに約5年かかった患者もいた。全例原因食物は単一であった。
 SPTを施行した22例全例が SPT 陰性で、原因食物に対するIgE感作は3例(13%)。
 寛解評価のOFC時期は、年齢中央値は21[15.3-32.0]ヶ月で、発症からOFCまでの期間の中央値は14[8-24]ヶ月であった。OFCが陰性例は、発症後13ヶ月(中央値)でFPIESの寛解を達成し、以降は無症状を維持した。OFC陽性例と陰性例では、初発症状からOFCまでの期間に有意差はなかった。
Fig3.
 原因食品は、大豆(n=8)、卵黄(n=5)、牛乳(n=3)、小麦(n=3)、卵白(n=2)、米(n=1)および魚(n=1)であった。
Table3. 陽性8例の臨床的特徴
 陽性例で最も多い原因食品は卵黄で、全例で嘔吐あり、8例中7例は反復性であった。顔面蒼白・低血圧はOFCでは認めなかった。6例(75%)が初日の負荷(総負荷量の1/50)で嘔吐し、陽性8例中2例(25%)が軽度、6名(75%)が中等度の反応を示したが、重篤な反応は認めなかった。4例(50%)に輸液やステロイド投与が行われたが、集中治療を要する症例はなかった。

DISCUSSION

全例がICU管理となることなく安全にOFCを受けることができた。寛解確認のOFCは最終の陽性症状から12〜18ヶ月以内に試みられることが多かった。

=寛解時期について=

イタリアでの研究(n=66)では、FPIES症例の48%が平均29ヶ月で寛解を達成した。

ギリシャの研究(n=78)では、診断からOFCまでの期間(平均33[27.1-38.9]か月)は我々の研究より長く、72.2%がOFC陰性であった。

除去期間が長いとacute FPIESの寛解率が高くなる可能性がある。acute FPIESは一般に予後が良好であり、ほとんどの患者は1~5歳までに症状が消失しうるが、 長い除去期間は、児とその家族に大きな負担を強いることになる。

当院では、初診から長い期間を経て栄養状態や発達のキャッチアップを考慮しOFCを計画したため、重篤な症状が誘発されることがなかったと思われる。

=OFCプロトコールについて=
 GLでは、重篤な反応の既往がある症例では開始量を0.06 g蛋白/kgとすることが推奨されている。カナダの研究では、acute FPIESの患者に対して、OFCを総負荷量の1/100から開始しているが、full doseまで時間がかかる欠点があり、患者の重症度や実現可能性を踏まえ、プロトコールに関してさらなる検討が必要である。
 本研究では、陽性例の 50%で輸液加療を行っており、GLで推奨されるように、OFC開始前にルート確保しておくことが望ましいと考えられる。GLの基準である4時間を超えて反応が発現した症例もあり、慎重な経過観察が必要である。

=原因食物/地域性について=
 ほとんどの症例では、原因食物は単一である。米国では牛乳と大豆が主な原因食品であった。オーストラリアの大規模コホート(n=230)では、米が最も一般的な原因食物(45%)であり、牛乳(33%)、卵(12%)がそれに続いた。イタリアとスペインの乳児では、魚が多かった。摂食習慣、特定の食物の開始時期、遺伝的素因がFPIES患者の地理的な差異を生み出しているのかもしれない。卵黄による即時型食物アレルギーは稀であるが、卵黄FPIESの報告は本邦で特に近年増加している。

=Limitation=
 本研究の長所は、acute FPIESの評価をGLに基づく標準化されたプロトコルで実施したことである。
 Limitationとして第一に単一施設での報告であること、第二に、レトロスペクティブな研究であること、第三にサンプル数が少なく原因食品とOFCの転帰の関係を評価することができなかったこと、第四にいくつかのデータの欠損があったことが挙げられる。
 現在、多施設共同前向きコホート研究が計画されており、これらのLimitationを克服することが期待される。

CONCLUSION

・寛解評価のためにOFCを施行したacute FPIES患者23名を対象とした検討を行った。

・acute FPIESの寛解は65.2%に認められ、発症からOFC施行までの期間の中央値は14[8-24]か月であった。 

 ・陽性例の75%で総負荷量の1/50で嘔吐が認められた。 

 ・OFCプロトコルは安全に実施できたが、患者によってはさらに少量の初期投与量から開始したほうが安全である可能性が示唆された。

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以下、所感です。

 本邦では、特に卵黄FPIESの発症頻度の増加が言われて久しいですが、2017年に発表されたInternational Consensus Guidelineで提唱されたOFCのプロトコールの見直しと新たなプロトコール(特に負荷量、間隔)を推奨する報告が増えてきています。
 FPIESは国別に原因食物や寛解時期が異なるとされており、日本から発表された日本での現状を示す非常に有益な報告でした。
 ポイントとしては、陽性例では少量=初回投与(本文献では総負荷量の1/50)で症状を来す例が75%であり、これまでの報告でも同様の傾向です。やはり初期投与量は1/100~1/50程度の少量からの開始が安全です。
 その他、連日負荷ではなく間隔を空けて漸増していく方式を推奨する報告もいくつか出ており、改めて取り上げてみたいと思います。

*記載内容に関してはあくまでも個人の解釈、意見の範疇ですので参考程度に捉えてください。

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