【観察研究】ダニ舌下免疫療法の早期における有害事象の検討

"Characteristics of dust mite sublingual immunotherapy-associated adverse events in the early phase"
"ダニ舌下免疫療法に関連した治療早期の有害事象の特徴"
Frontier in Medicine. 2022(9);1-6. Ming Chen, Lin Lin, Maoxiao Yan, et al.

以下、文献へのリンクです。
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INTRDUCTION
 過去数十年間で、アレルギー性鼻炎(AR)の発症率は世界中で増加しており、中国でもARの有病率が高く、直接的および間接的に高いコストがかかっていることが明らかになっている。ARの管理については、アレルゲン回避、薬物療法、アレルゲン免疫療法(AIT)、患者教育が世界保健機関(WHO)により推奨されており、特にAITは、アレルギー疾患の自然経過を変えることができる唯一の治療法とされる。より安全な治療法として、舌下免疫療法(SLIT)が広く臨床に用いられ、中国では16年前から、標準化されたハウスダストマイト(HDM)のSLITが適用されている。
 一連の臨床試験で、小児および成人のHDM誘発性ARの治療におけるSLITの有効性と安全性が強く証明されたが、SLIT治療中の有害事象の特徴について研究した研究はほとんどない。本研究の目的は、SLITを6ヶ月間投与したAR患者の臨床的初期効果、有害事象の特徴、コンプライアンスを探ることであった。

METHOD
 対象は2020年3月から11月にかけて、中国の3つの総合病院において、HDMによる通年性ARと診断された4~65歳の患者計242名。
適応基準:
・Allergic Rhinitis and Its Impact on Asthmaに従って中等度から重度のARと診断
Dermatophagoides farinae/Dermatophagoides pteronyssinusに感作され、血清特異的IgE値0.7KU/L以上のもの
 除外基準:
他のアレルゲンに感作されている患者、慢性鼻副鼻腔炎患者(鼻ポリープの有無を問わず)、他の免疫系疾患や重度の心血管疾患を有する患者、βブロッカーやアンジオテンシン変換酵素阻害剤で治療中の患者、妊娠中や授乳中の患者、重度の心身障害や治療のリスクと制限を理解できない患者

 本研究では、全患者に標準化されたD. farinae舌下液(Chanllergen、Zhejiang Wolwo Bio-Pharmaceutical Co.Ltd.、中国)をメーカーの指示に従い投与した。
 治療スケジュールは、増量期と維持期に分かれており、No.1〜5の舌下液に、それぞれ5段階の濃度(1、10、100、333、1,000mg/ml)のタンパク質を含有していた。
14歳未満の小児のスケジュール>>
 増量期:最初の3週間はNo.1,2,3をそれぞれ服用(1日目から7日目までは、1、2、3、4、6、8、10滴の順で投与)
 維持期:4週目以降は、No.4の舌下液を1回3滴ずつ投与
14歳以上の患者のスケジュール>>
 増量期:最初の3週間はNo.1,2,3をそれぞれ服用(1日目から7日目までは、1、2、3、4、6、8、10滴の順で投与)
     4-5週目は、No.4の舌下液を毎回3滴ずつ投与
 維持期:6週以降は、No.5の舌下液を1回2滴投与

 本剤は毎日同じ時間に内服し、飲み込む前に1~3分間舌下で保持した。なお、初回投与は病院で行い、30分以上観察した後に帰宅とした。

 本研究では、6ヶ月目時点での患者の状態を以下のように定義した。
"奏効群" 無症状または軽度の症状で、軽い薬物療法(H1抗ヒスタミン剤の使用)でコントロール可能な群
"部分奏効群" 中等度の薬物療法(低用量(100~200mg/日)の点鼻ステロイドの使用、H1抗ヒスタミン薬の使用、ロイコトリエン拮抗薬の使用)を行ったうえで、症状が軽度から中等度の群
"効果不良群" 抗ヒスタミン薬やロイコトリエン拮抗薬の使用の有無を問わず、高用量(300~400mg/日)の点鼻ステロイドを使用したうえで中等度から重度の症状を有する群

 全患者を対象に初回、フォローアップ時に都度患者教育を実施し、SLIT投与1カ月目、3カ月目、6カ月目の各週に電話によるフォローアップを行った。さらに、初期の有効性、有害事象、コンプライアンスについて分析した。

RESULT
 治療効果:計242名のうち、170名(男性112名、女性58名、平均年齢11.86±9.96歳)が6ヶ月の過程を完遂し、72名が完了できなかった。終了した患者において、SLIT6ヵ月後の早期有効率(奏効群、部分奏効群)は87.65%であった。全体では、170名中58名(34.12%)が奏効群、91名(53.53%)が部分奏効群、170名中21名(12.35%)が効果不良群であった(Fig.1)。

 有害事象:SLITに関連する有害事象として口や舌の痒み、局所の発疹、消化器症状、 疲労、鼻炎の悪化などが挙げられた。世界アレルギー機構(WAO)によるSLITの有害事象のGradingではグレード1~2で、ほとんどがグレード1であった。
 59名の患者が全試験期間中に74回の有害事象を報告し、そのうち68件が1か月後、4件が3か月後、2件が6か月後にが報告された(Fig.2)。
 SLIT投与1ヶ月目には局所の発疹、消化器症状、口や舌のかゆみが有害事象の上位3つであり、3ヶ月目と6ヶ月目では口や舌のかゆみが主症状となった。3ヶ月目と6ヶ月目の有害事象の発生率は、1ヶ月目に比べて有意に低かった(P < 0.001)
 1ヶ月目では、1週目、2週目、3週目、最終週でそれぞれ24、18、17、9の有害事象が報告され、より早期に頻度が多い傾向であった。

 年齢別の解析:年齢別に14歳未満群(4~13歳、n=128)と14歳以上群(14~65歳、n=42)に分け、両群の1ヶ月間の有害事象発生率を分析したところ、14歳以上群の有害事象発生率は14歳未満群よりも高く、"口や舌のかゆみ"、"消化器症状"、"疲労"、"その他の有害事象"において有意差を認めた(いずれもP<0.05)(Fig.3)。年齢と治療効果の相関を分析したところ、年齢は治療効果と有意に負の相関を示した(Fig.4、r = -0.1614, P = 0.0355)。

 中止理由:SLIT中止となった理由は、薬剤入手困難、追跡不能、など7つのカテゴリーに分けられた。COVID-19のパンデミック時の封鎖により、薬剤が入手できなかったことが最多の原因(39%)であった。電話番号の間違いなどによる追跡不能は29%で、症状が改善し治療を継続する理由を見いだせなかった人も7%いた。

DISCUSSION
 これまでに発表されている試験により、SLITには、早期効果、持続効果、長期効果、予防効果があると強く証明され、SLITがAR治療の第一選択として推奨されているが、本研究でもSLIT治療の早期の有効性がさらに確認された

 舌下免疫療法は、誘発される有害事象が軽く少ないことから、比較的安全で忍容性の高い治療法と考えられていた。これまでのほとんどの研究報告では有害事象の全体的な状況について記述されているだけで、最も多く報告されている有害事象は SLIT開始後第1~2週に発生し、主に舌下の痒み、発疹、消化器症状であった。本研究では、さらに治療初期の各時点における有害事象の違いを観察し、また、最初の1カ月間は、14歳以上群では14歳未満群より有害事象が頻発することが判明した。これは、両群のサンプルサイズに差があったこと(14 歳未満群:128 名,14 歳群:42 名)、低年齢の児は有害事象の表出が不正確である可能性があることなどが考えられる。また、初めて年齢とSLITの臨床効果との関係を検討し、年齢はSLITの効果と負の相関があり、できるだけ早く開始した方が治療効果が優れていることが分かったが、この結果を確認するためには、より多くの研究が必要である。

 一般的にAITは3~5年継続することが望ましいとされており、良好な治療効果を得るためには、患者のコンプライアンスが重要な要素の一つとなっているが、本研究では、合計72名が脱落した。その主な理由のひとつが、薬剤の入手が困難となったことでCOVID-19のパンデミックによる影響も大きかった。その他の事由に関しても初期・フォローアップ時いずれにおいても患者教育を強化することが有効な解決策になるかもしれない。さらに、ある研究では、初回処方の標準的な期間として6ヶ月が推奨されていることが報告されており、これはAR患者のSLITのコンプライアンスを大幅に改善する可能性がある。

CONCLUSION
 HDM-SLITを投与されたAR患者において、6ヶ月後に早期効果が認められたが、ほとんどの有害事象は増量期に発生し、そのうち上位3つは局所の発疹消化器症状口や舌のかゆみであった。また、年齢とSLITの臨床効果との相関分析から、治療開始時期が早いほど、より優れた効果が得られることが示唆された。これらの結果を確認するためには、より多くの研究が必要である。
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以下、所感です。 

 中国から、ダニアレルギーに対する舌下免疫療法に関する前方視観察研究です。
今回使用されているのはダニ舌下液ですが、日本では舌下錠のみで舌下液の採用は無いようです。スギでは舌下液(シダトレン)がありますが、舌下錠を使用することが多いでしょうか。
 世界的にARは増加傾向で、中国でも日本でも同様の状況のようです。今回使用された薬剤に関しては日本では使用できませんが、傾向として参考になると思い取り上げました。

 舌下液では増量期にあたる、より早期で有害事象が多いようですが、アナフィラキシーなどの重大な有害事象は認められなかったとのことで、やはり皮下免疫療法(SCIT)と比較して患者負担(侵襲性、有害事象など)の面ではSLITに大きく軍配が上がる結果です。
 起こった有害事象に関しても継続していくうちに、おそらく耐性が進んで次第に消失していくようです。これは免疫療法全般に共通する経過で少量から開始する意義かと思います。

 今回面白いなと感じたのは、本論文では14歳で区分されていますが、若年層ほど有害事象が少なかったり、有効性が高かったりするようです。論文中の考察ではサンプルサイズの差異や年齢により訴えを表出できないことが原因として扱われているようで、確かに主観的な有害事象が多いのでその通りかもしれませんが、早期に開始するメリットには十分なり得るのではないでしょうか。有効性に関しては、個人的には他の食物などと同様に、やはり低年齢ほど減感作が進みやすく免疫寛容されやすいのでは、と思います。

 しかし、観察は電話フォローだけなのですね。考察終盤から読み取るに、中国では舌下液6か月分を一気に処方して増量・継続してもらうのでしょうか。。なかなか複雑なスケジュールですし、安全性やコンプライアンスなども加味すると、日本での舌下錠のように月1回(初回は1週後)の処方の方が、受診頻度は増えますが得られる効果は高そうですね。

*記載内容に関してはあくまでも個人の解釈、意見の範疇ですので参考程度に捉えてください。

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